何をもって買収を「成功」と判断するのか「海外企業買収失敗の本質」

※この記事は公開から1年以上経っています。
alt

数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本も紹介する。

「海外企業買収失敗の本質 戦略的アプローチ」

もはや海外企業とのクロスボーダー(海外)M&Aは珍しくなくなった。それでも「日本企業は海外企業の買収が下手」と言われる。

著者は「日本人は交渉が苦手」「ビジネス慣習の違う外国企業のマネジメントができない」という抽象的な評価ではなく、具体的な事例をもとにして失敗の要因を明らかにしていく。

そもそも何をもって買収を「成功」または「失敗」と判断するのか-から始まる。

本書では「買収後4年目を始点とし、対象事業セグメントと地域/海外セグメント(の)営業利益(が)両方で最高益更新率50%以上を実現」すれば「成功」、「買収後に自社が破綻、あるいは買収した事業を売却、撤退」したら「失敗」と定義した。

その結果、100億円を超すクロスボーダーM&Aから10年が経過した116件の事例のうち、実に半数近い51件が「失敗」したことが分かったという。

失敗事例を検証した結果、買った企業の売上高または生産能力が買われた企業の2倍以上あること(規模の優位性)、買った企業で買収を実行した経営者が10年以上残ること(10年経営)の2つがM&Aの成功に関係しており、両方を満たしていない51件の買収のうち実に90%を超える47件が失敗だったという。

確かに買った会社に体力があれば、買われた会社に対する資金や技術、人材の支援も十分に行き届くだろう。「身の丈に合った買収をしなさい」ということだ。一方、「10年経営ができたから買収が成功した」と結論づけられるかどうか。「買収(を含めてビジネス)の成功があったから10年経営ができた」とも考えられ、この場合は10年経営と買収の成功に相関関係はあるが因果関係はないことになる。

とはいえ同一の座標軸から個々の買収を分析することで、失敗事例での問題点を浮き彫りにしたのは秀逸だ。M&Aで世界シェア拡大を狙っても市況が悪化すれば規模の大きさは膨大な余剰人員・設備を抱えるデメリットになること、海外との相乗効果を生むには追加の投資と時間が必要であることなど、買収時には買った企業はもちろんマスメディアですら気がつかない盲点も明らかにしている。報道で大きく取り上げられる海外企業の買収を、より深く理解するのにも役立つ1冊だ。

文:M&A Online編集部

NEXT STORY

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5