さて、アップルによるARMアーキテクチャーCPUの初採用は、1991年に発売したPDA(個人情報端末=通信機能がないタブレット端末)「ニュートン」向けに共同開発した「ARM6」ベースの「ARM610」だった。「ARM6」は、ARMが設立後に初めて開発したCPUだ。その後もARMは携帯音楽プレーヤーの「iPod」やスマートフォンの「iPhone」、タブレット端末の「iPad」向けにCPUを開発している。ARMにとってアップルは「創業以来のお得意様」なのだ。
それにもかかわらずARMとアップルの関係が目立たないのは、モバイル端末向けのCPUとして圧倒的に強く、モバイルCPUの「事実上の世界標準」だから。日本製品だけでも任天堂<7974>の「ゲームボーイアドバンス」や「ニンテンドーDS」「同 Lite」、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation Vita」といったポータブルゲーム機、NTTドコモの3G(第3世代)携帯電話「FOMA」シリーズ以降の端末など、多くの製品でARMアーキテクチャーが採用されている。そのためARMの「アップルカラー」が薄められているのだ。
現在、ARMの持株会社である英ARMホールディングスはソフトバンクグループ(出資比率75%)と同社傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(同25%)の子会社となっており、アップルとの資本関係はない。だが、アップルとARMは「二人三脚」による共同開発を続け、ついにパソコンの「Mac」シリーズにまで到達した。
新たに採用する「Apple Silicon」は「電気は食わないが、処理能力はそこそこ」だったモバイル用のARMアーキテクチャーを、パソコンにも利用できるようパワーアップしている。インテル製CPUより省電力なのはもちろんのこと、処理能力も高いという。アップル製パソコンに搭載するCPUは、今後2年をかけて全てがARMアーキテクチャーになる。
アップルとしては音楽端末からスマホ、タブレット、パソコンに至るまで、同一の環境でシステムやアプリケーション開発が可能になる。マイクロソフトが「ウィンドウズ」で実現できなかったスマホやタブレット、パソコンといった端末のカテゴリーに依存しないシームレスな使用環境を提供できれば、現在は世界シェアが7%弱にすぎない「Mac」シリーズの存在感も高まるだろう。
さらには、IoT(モノのインターネット)で最も普及しているARMアーキテクチャーを「Mac」シリーズに取り込むことで、アップルが次世代デジタル社会の新たなプラットフォームを構築するかもしれない。
文:M&A Online編集部
これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。