日産自動車<7201>の2020年3月期決算はリーマン・ショック直後の2009年3月期以来、11年ぶりの最終赤字となった。しかも赤字額は6712億円と、仏ルノーによる救済とカルロス・ゴーン前会長を受け入れた1999年の「日産危機」当時に迫る水準だ。同社は自社ホームページで「このような厳しい事業環境を乗り切るための十分な流動性を維持しています」と経営危機の懸念払拭に努めている。

手元キャッシュは積み増したが…

ホームページでは「(2019)年度末で自動車事業の手元資金は1兆4946億円で、自動車事業のネットキャッシュは1兆646億円でした。また、日産は約1.3 兆円の未使用の融資枠を保有しています。さらに新型コロナウイルス対応のために、7126億円の資金調達を4月から5月にかけて実行しました」(原文ママ)と、十分なキャッシュを確保していることをアピールした。

確かに2020年5月29日に発表した2020年3月期連結決算の手元流動性比率は、前期の1.4から1.9へ上昇。およそ2カ月分のキャッシュを持っていることになる。一般に手元流動性は大企業で1カ月分、中小企業でも1.5カ月分以上を確保していれば安全と判断されるため、日産の主張通り巨額赤字を計上したとはいえ経営破綻状態ではない。

ただ、キャッシュフロー計算書によると、投資キャッシュフローのマイナス幅が減少しており、営業活動で得たキャッシュを投資に回さずにひたすら現金を積み増していることが分かる*。

〇日産のキャッシュフロー(単位:百万円)

決算期営業CF投資CF財務CF現金・現金等価物フリーCF
2020年3月期1,185,854-708,687-155,4941,642,981477,167
2019年3月期1,450,888-1,133,547-127,1401,359,058317,341
増 減-265,034424,860-28,354283,923159,826

キャッシュは十分としても、あくまでも現在の話だ。将来の成長のためには、投資が欠かせない。「緊急措置」として一時的にキャッシュをかき集めるのは仕方ないが、この状態が長期化するようなら日産の長期的な展望は拓(ひら)けないだろう。キャッシュの潤沢さをアピールするだけでは、投資家や従業員などのステークホルダーを安心させるには不十分だ。

文:M&A Online編集部

*投資キャッシュフローは投資をすればマイナス幅が拡大し、投資を抑制すればマイナス幅が減少する。2020年3月期の場合、日産は投資を前期比で4248億6000万円ほど減らしたことが分かる。