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元メガバンク行員が語る、銀行で有利にM&Aを進める方法とは?①
M&Aを実行する際、銀行への相談を検討している経営者は多いだろう。なぜなら、取引銀行の場合、会社に関するあらゆる情報を銀行に提供しているからだ。
鳴り物入りの大型M&Aがご破算となるケースが相次いでいる。2月に入り、ソフトバンクグループが半導体設計子会社の英アームの米半導体大手エヌビディアへの売却を断念したのに続き、国内では地銀のフィデアホールディングス(HD)と東北銀行による経営統合が白紙に戻ることになった。最近3年でみても、いったん合意しながらM&Aが中止となる案件は大小合わせて25件(適時開示ベース)を超える。
ソフトバンクGがアームを買収したのは2016年。買収額は3.3兆円と、当時として日本企業がかかわる最大規模のM&Aだった。そのアームを一転、4.2兆円で売却すると発表したのは2020年9月のこと。短期間のうちに買い手と売り手を演じ分け、1兆円近い差益を手にする算段で、投資会社化したソフトバンクGの面目躍如といったところだった。
ところが、半導体市場への影響力が過度に高まるとして各国で独禁法関連の審査が難航。売却を断念し、アームの株式再上場によって資金化を目指す方向に転換した。
フィデアHDは傘下に荘内銀行(山形県鶴岡市)と北都銀行(秋田市)を持つ銀行持ち株会社。盛岡市に本店を置く東北銀行との統合が実現すれば、東北全域(6県)をカバーする広域地銀グループが誕生する運びだった。しかし、経営戦略の方向性やガバナンス体制で見解の相違があったとし、昨年7月の基本合意から半年余りで白紙撤回となった。
今年1月にはジェイフロンティアがオーダーメイド美容液を手がけるmy‘s(川崎市)の子会社化を取りやめた。昨年11月末の基本合意から2カ月足らずで契約を解除した。
実は、M&Aの中止は思いのほか頻発している。その件数は2015年6件、16年6件、17年4件、18年8件、19年14件、20年8件、21年4件(いずれもM&Aを当初発表した年)。21年の発表分にはまだ取引完了前の進行中の案件も少なくなく、今後、中止案件が増える可能性もある。
国内の上場企業同士による経営統合の破談も今回のフィデアHD・東北銀行以外に2015年以降、加賀電子・UKCホールディングス(現レスターホールディングス)、JKホールディングス・橋本総業ホールディングス、東洋製罐グループホールディングス・ホッカンホールディングス、日本触媒・三洋化成工業の4件を数える。
過去、日米をまたぐ大型案件で記憶に新しいのが富士フイルムホールディングスによる米ゼロックスの買収頓挫。買収金額は約6700億円。2018年1月に買収合意しながら、これをゼロックス側が一方的には破棄して法廷闘争に発展した。
1年半にわたる対立の末、富士フイルムHDは買収を中止する代わりに、ゼロックスとのほぼ60年に及ぶ合弁関係を解消し、ゼロックスが25%保有する富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)を完全子会社化することで矛を収めた。
同じ日米間では東京エレクトロンとアプライドマテリアルズとの経営統合の撤回が思い出される。2014年のことだ。半導体製造装置世界4位と首位の組み合わせということから、各国独禁法当局の審査が難航。統合スケジュールを3度延期したが、最終的に統合計画は白紙に戻った。
◎近年の主なM&A中止案件
中止発表 | 当初の合意内容(カッコ内は発表時期、HCはホールディングス) |
2022/2 | フィデアHD、東北銀行が2022年10月に経営統合(2021/7) |
〃 | ソフトバンクグループ、傘下の英半導体設計大手アームを米エヌビディアに売却(2020/9) |
2021/9 | 新日本建設、元東証1部上場の建設会社「冨士工」(東京都中央区)を子会社化(2021/8) |
2021/1 | AGC、セントラル硝子が国内建築用ガラス事業を2020年12月に統合(2019/12) |
2020/10 | 日本触媒、三洋化成工業が2020年10月に経営統合(2019/5) |
2020/8 | キリンHD、豪子会社の飲料事業を中国・蒙牛乳業に売却(2019/11) |
2020/1 | オリンパス、デジカメ製造の中国子会社を現地社に売却(2018/12) |
2019/11 | 富士フイルムHD、事務機器大手の米ゼロックスを子会社化(2018/1) |
2018/11 | LIXIL、イタリア建材子会社のペリマスティリーザを中国企業に売却(2017/8) |
2018/3 | 東洋製罐グループHD、ホッカンHDが2017年4月に経営統合(2016/4) |
2017/9 | JKホールディングス、橋本総業HDが2017年10月に経営統合(2017/2) |
2016/4 | 加賀電子、UKCホールディングスが2016年10月に経営統合(2015/11) |
2015/4 |
東京エレクトロン、米半導体製造装置大手アプライドマテリアルズが経営統合(2013/9) |
文:M&A Online編集部
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M&Aを実行する際、銀行への相談を検討している経営者は多いだろう。なぜなら、取引銀行の場合、会社に関するあらゆる情報を銀行に提供しているからだ。