2019年のM&A市場を象徴するキーワードの一つが「敵対的買収」。日本では例年、対象企業の同意を得ずに行われる敵対的買収そのものが1件あるかどうかだが、今年は一転、伊藤忠商事VSデサント、エイチ・アイ・エス(HIS)VSユニゾホールディングス、コクヨVSぺんてる、のケースが3件相次いで発生した。結果は買収側が“1勝2敗”で、負け越した形だ。

伊藤忠・デサント、大手企業同士の攻防戦に

伊藤忠がスポーツ用品大手、デサントへのTOB株式公開買い付け)を始めたのは1月末。デサントは「反対」を表明し、敵対的TOBが確定した。大手企業同士の攻防戦としては2006年に王子製紙が仕掛けた北越製紙(現北越コーポレーション)への敵対的TOB(結果は不成立)以来とあって、その成否に注目が集まった。

TOBが発表されると、対象企業の取締役会は10営業日以内に賛成、反対、中立、留保などの意見表明を行わなければならない。ほとんどの場合、対象企業の賛同を得て友好的にTOBを行うが、伊藤忠は事前に通告せず、TOBに着手した。

結果は伊藤忠の勝利。このTOBはデサント株の持ち株比率を30%強%から40%に引き上げることを目的とし、50%超の過半数の株式を取得して子会社化するものではなかったものの、筆頭株主としてデサントの支配権を事実上握ることに成功。創業家出身の石本雅敏社長は退陣に追い込まれた。

HISが「ユニゾ」騒動の引き金

今年のM&A案件で、“混迷度”ナンバー1といえば、不動産・ホテル業のユニゾホールディングスをめぐるTOB劇だ。7月に始まったTOBは二転、三転を経て、越年が確定しているのだ。

その端緒となったのは旅行大手のHIS。HISはユニゾ株5%弱を持つ筆頭株主で、持ち株比率を45%に高めることを目的に7月にTOBを開始。伊藤忠の場合と同様、ユニゾを事実上傘下に収め、ホテル事業で提携を進めることなどを狙った。

ユニゾは反対を表明し、敵対的TOBの図式になっていたが、その渦中の8月半ば、ユニゾ側に味方が現れた。ソフトバンクグループ傘下の米投資会社フォートレス・インベストメント・グループがHISを上回る買付価格を提示し、TOBに参戦した。ユニゾが賛同する友好的な買収者、いわゆるホワイトナイト白馬の騎士)の登場だ。HISのTOBは応募がなく、不成立となった。

事はこれで終わらなかった。9月末、ユニゾはフォートレスのTOBに対して賛同を撤回し、留保に変更。他方、別の米投資ファンドがフォートレスを上回る好条件をユニゾに提案し、協議が始まるなど混迷の様相を呈していた。

従業員による買収で決着なるか?

さらに年の瀬を迎え、事態が急展開。ユニゾは12月22日、従業員による買収(EBO=エンプロイー・バイアウト)を実施して非公開化すると発表。手を組んだのはさらに別の米投資ファンドのローン・スター。従業員とローン・スターが出資する新会社がユニゾに対してTOBを行い、全株式の取得を目指す。買付金額は最大約1745億円にのぼる。買付期間は12月24日~2020年2月4日。

当該企業の経営陣による買収(MBOマネジメントバイアウト)というケースがあるが、EBOは上場企業で初めてとされる。もっとも、奇策ともいえるEBOが成就するかどうかはまだまだ不透明だ。

当のフォートレスの対ユニゾTOB自体も成立が見込めないまま、買付期間(2020年1月8日まで)が9度延長され、93日に及ぶ前例のない持久戦となっている。ユニゾはEBOを受け、フォートレスのTOBに対する意見を留保から反対に変更した。当初の友好的買収から、敵対的買収に図式が一変した点でも異例といえる。