7月11日不動産事業、ホテル事業を行っているユニゾホールディングス(ユニゾ)に対して、旅行代理店大手でホテル事業にも力を入れているエイチ・アイ・エス(HIS)が株式公開買付(TOB)を開始した。

事前に買付対象先の合意がないTOBは、今年になって伊藤忠の対デサント、南青山不動産(旧村上ファンド系)の対廣済堂に続き、3件目となる。本稿執筆時点(7月12日午前8時)では、ユニゾ側の意見表明報告書が確認できないが、この後仮に「反対」の意見が表明されることになれば、対デサントに続き2件目の敵対的買収となる。

今回のTOBは、3月に成立したデサントへの敵対的TOB既掲の拙稿を参照)と多数の共通点がある。
(1) 買付者が、買付対象企業の事業に関心が高く、経営に関与したい、協業したいという意向を表明している。
(2) 買付者が、TOB以前に、買付対象企業の主要株主となっていて(2019年3月末時点で、HISはユニゾの筆頭株主)、現経営陣との対話を試みたが、対話に消極的であると主張している。
(3) 公開買付後の買付者の保有比率が、過半数を超えないように(デサントは40%、ユニゾは45%)買付株数に上限を設け、買付対象企業を子会社化するわけではない、としている。
(4) 直前株価に対する買付価格のプレミアムは、両社とも50%前後(ユニゾはTOB公表前日に株価が急上昇しているため、前々日の株価終値で計算)である。
(5) TOB成立要件としての買付株数の下限は設けず、応募された株式は上限を超えない限り、全て買付対象とするとしている。

一方で相違点もいくつかある。
(1) 買付者が、買付対象企業の筆頭株主になったのは、デサントでは少なくとも2001年以前(手元資料により遡れる限りで)、ユニゾでは2018年9月以降(公開買付届出書による)。
(2) 新規に買い付ける株式の比率は、デサントは9%だったのに対し、ユニゾは40%。(必要資金は、デサントが202億円、ユニゾが427億円。)現在のユニゾの株主構成(個人28%、外国人17%)から見て、40%の上限まで買い付けられるかは若干疑問。

筆者は、デサントへの敵対的TOBの際に、このような上限を設けたTOBを幅広く可能にしている日本の現行株式公開買付制度の問題点を指摘した。日本における「全部買付義務」は、66.7%以上の持分を目指す場合にのみ適用され、それ未満の場合には、今回のユニゾのケースのように、TOB完了後の持分を45%とする買付が許される。実際、このようなTOB完了後の買付者の持分が過半数を超えないTOBには、いくつかのメリットがあると考えられる。

(1) 何といっても、買収金額が少なくて済む。過半数の持分を取らなくても、実質的に企業経営への影響力を獲得できるのだから。
(2) 上記に関連して、買収金額が小さくなった分だけ、買収プレミアムも大きい比率を設定できる。
(3) 過半数を取っているわけではないので、経営を直接支配するのではなく、買付対象企業の「独立性」を尊重したと主張できる。この点、デサントのTOBにおいて従業員組合などから敵対的買収に対し、反対が表明されたことからもわかる通り、日本の企業には、自社の経営権を事前合意無しに「乗っ取られる」ことへの拒否感が強く、こうした感情的反応を緩和できる。
(4) 買付対象企業の上場が維持され、当面TOB完了後に追加の資金は不要である。
(5) しかも、デサントの例に見るように、事後的には経営権を掌握できる可能性が高い。

かくして、伊藤忠のデサントへの「9%の敵対的TOB」は、事前合意なくTOBを実施する際に、完了後の持分を100%ではなく、過半数以下を目指すという手法(「40%台ターゲットTOB」と呼ぼう)のメリットを広く周知した、いわば「パンドラの箱を開けた」と考えられ、今回のユニゾに限らず、40%台ターゲットTOBは今後も利用が増えてくる可能性がある。

一方で、このようなTOBの結果として、過半数の議決権を保有していないが故に、完了後に経営陣と大株主の間での経営主導権争いに発展する懸念がある。その際には、本来無関係の既存少数株主は経営権争いから発生するコスト(内紛から来る経営不振等)を負担させられることになりかねない。

現在、株式市場における上場子会社のガバナンスに厳しい目が向けられている。40%台という圧倒的大株主を持つ上場子会社が突如誕生し、場合によっては経営権が譲渡されかねないにも関わらず、一部の株主しかTOBによる株式売却機会が与えられない現行のTOB制度について、このままで良いのか、併せて検討を加える時期が来ているのではないかと筆者は考えている。

文:鈴木一功(早稲田大学大学院 経営管理研究科教授)