新進気鋭のアナリスト巽震二が送るTOBマーケットレビューの連載第2回。M&A Onlineでしか読めないレポートは必見です。

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こんにちは、マーケットアナリストの巽 震二(たつみ しんじ)です。前回に引き続き、国内株式TOBマーケットの振り返りとこれからについて述べたいと思います。

巽 震二のTOB注目銘柄 昭和シェル石油<5002>

今回は、昭和シェル石油<5002>に注目したいと思います。

報道されている通り、昭和シェル石油は同業の出光興産<5019>との合併を計画していましたが、出光興産創業家の反対により合併計画が頓挫している状況です。

そもそもこの統合案件は、昭和シェル石油と出光興産の経営陣と昭和シェル石油の筆頭株主(33.24%保有)であるロイヤルダッチシェルの利害が一致して始まったものでした。

両者の経営陣には、日本の石油製品需要がバブル崩壊後一貫して減退し続けている中で業界全体の設備過剰が問題となる中、先陣を切って業界再編を進めるJXホールディングス<5020>と東燃ゼネラル石油<5012>との経営統合の動きなどを見て、もはや単独での生き残りは困難という危機感が高まり、残された者同士での経営統合をしたいという意向がありました。

またロイヤルダッチシェルは、日本市場を見限り、保有する昭和シェル株式を売却したい意向がありました。

そこで、出光興産がロイヤルダッチシェルから昭和シェル石油の保有株式全部を買い取ったのち、合併により経営統合を行うことが計画されました。

しかし、資産管理会社や関連財団を通じて出光興産の実質的筆頭株主(33.92%保有)となっている創業家がこれに真っ向から反対し、昭和シェル石油の株式0.1%「以上」を取得することにより金融商品取引法の規制によりロイヤルダッチシェルの保有株式の取得にTOBが必要となる状況を作り出し、かつTOBの手続きに必要となる出光創業家が保有する昭和シェル石油株式の数量情報を曖昧にしか開示せず、正確な株式数を秘匿することでTOB手続きも阻止するという手法で上記の計画を実行不可能なものとすることにすることに成功し、出光興産及び昭和シェル石油は10月13日に合併の延期を発表しました。

この一連の動きをみると、出光興産と昭和シェル石油の合併の可能性はほぼ潰えたと見ざるを得ないでしょう。

しかし、重要なポイントは、出光興産の創業家は経営統合を阻止したものの、経営統合が計画されるに至った根本原因である日本の石油製品需要の減退までは阻止できていないということです。よって、ロイヤルダッチシェルの株式売却の意向も、昭和シェル石油も出光興産も単独での生き残りが困難である状況も、何ら変化は生じていません。

そのため私は、早晩昭和シェル石油の売却は実現するとみています。

昭和シェル石油の売却スキームとは

そのキーは、昭和シェル石油の負債スラックが比較的潤沢であり、LBOの対象となりうる点です。

昭和シェル石油の純有利子負債は2016年第2四半期末で137,855百万円、5年平均フリーキャッシュフロー(営業CF+投資CF)は44,948百万円ですので、現時点の債務償還年数は3.1年程度です。

仮に一般的に正常な債務償還年数の上限値の目安とされる10年まで負債を積み増すとすれば、449,480百万円まで純有利子負債を調達できますので、負債スラックが311,627百万円ある状況です。

2016年10月26日終値ベースの昭和シェル石油の時価総額は364,037百万円ですから、時価総額の86%に相当します。仮に、売り急ぐロイヤルダッチシェルから市場株価で、一般株主に対しては15%のプレミアムでTOBを行うとすれば、必要な自己資金は889億円となります。

かなり大規模な投資にはなりますが、出光興産以外の第三者、たとえばLBOファンドなどによるTOBであれば創業家のブロックは問題とならないので、そのようなシナリオもあり得ると考えられます。石油精製業界の再編は経産省も重視する課題ですので、場合によっては政府系資金の投入もあり得るかもしれません。