伊藤忠によるデサントへの株式公開買付(TOB)は、デサントが意見表明報告で反対方針を表明したことで、敵対的TOBと定義づけられることになった。

(1) 直前の株価1871円に対して、買付価格が2800円と高いこと(49.7%のプレミアム)、(2)買付株数が発行済株式の10%程度と低いことを勘案すると、対抗的なTOBMBOを含む)が経営陣等によって提起されるなどの新たな展開がない限り、TOBの成立自体は間違いない。TOB終了後、伊藤忠はデサントの40%の株式を保有することになる。

今後の問題としては、TOB後に何らかの妥協が成立するのか、それとも対立関係が続いて、経営陣の選任を巡って議決権争奪戦(proxy fight)に突入するかということになろうが、本稿はそのことを論ずることが目的ではない。むしろ問題としたいのは、今回のTOBの詳細に見る、日本の株式公開買付制度の問題点である。

現制度再考する時期

今回のTOBは、上限(721万株)を設けたいわゆる部分買付(partial offer)である。仮に買付に応募した株式数が上限を超えた場合、按分によって721万株を越えた部分の買付は行われない。すなわち、伊藤忠のTOB後の持分は40%を超えることはない。問題としたいのは、このような上限設定が日本の株式公開買付制度においては許容されていることである。

日本において、企業支配権の移動を伴う3分の1を超える株式の買付において、株式公開買付制度の利用を強制する制度は、英国の制度を参照したとされる(米国には類似の制度はない)。しかしながら、英国においては、上限は30%までとされており、今回のような40%持分を上限とするTOBは原則実施できない。

英国では、30%を超えた公開買付をする場合には、「全部買付義務」といって上限を設けず、幅広く少数株主に公開買付によって株式売却する機会を与えることを重視するからである。

すなわち、英国ルールであれば、伊藤忠はデサントの株式を全株買い取る覚悟がなければ、TOBは実施できなかったことになる。この点、日本でも2006年暮れに全部買付義務が導入されたが、66.7%超の持分を目指す場合についてのみであり、仮に経営を実質的に支配できる51%の持分を目指していたとしても、上限を定めた部分買収が可能である。

友好的なTOBであれば、仮に過半数を公開買付者が保有したとしても、買付者と現経営陣の協力が期待できるかもしれない。しかしながら、今回のような敵対的TOBにおいては、TOB成立後に伊藤忠とデサントの対立が続き経営の停滞が懸念される。

こうした懸念から株式を売却したいと考えた少数株主は、(1) TOBに応募して株式を買い付けてもらえる可能性に賭ける(買い付けられなければ、その後の低下した市場価格で売るか、保有し続ける)か、(2) TOBへの応募をせず現在の株価(買付価格を一部反映し、2500円程度)で株式を売却するか、の選択を迫られることになる。

今回は、プレミアムが高めに設定されているため、少数株主は、(2)でも30%程度のプレミアムを享受できる。しかしながら、下に掲載した筆者等の研究(※)によれば、部分買付のプレミアムは低く、時としてマイナス(「ディスカウントTOB」)であることも多い。

現状の制度では、現経営陣に批判的な大株主と事前に合意が成立すれば、ディスカウントの買付価格での部分買付TOBによって、少数株主は完全に蚊帳の外のまま、敵対的買付者が実質的に経営権を取得することも可能である。現状の制度設計が果して妥当なのか、今回の件を通じて再考する時期が来ているのではないだろうか。

The impact of changes in Japanese tender offer regulations on bidder behavior and shareholder gains(英文)

文:鈴木一功(早稲田大学大学院 経営管理研究科教授)