廣済堂に対するベインキャピタルと提携したマネジメント・バイアウト(MBO)にかかる株式公開買付(TOB)は、対抗的TOBが発表されたことにより、その成否が混沌としてきた。廣済堂によるTOBは、本年1月17日に発表され、直前の株価419円に対して、買付価格が610円と45.6%の一見高水準のプレミアムを付した案件であった。しかしながら、2月18日に、創業家の大株主と監査役1人が、会社の持続的成長につながらない、事前に十分な資料や時間を与えられなかった、などと反対を表明。この間、投資家の村上世彰氏の影響が強いとされるファンド「レノ」などが、保有比率を増やしていることが判明していた。

ベインキャピタル側も、危機感からか、3月8日に買付価格を700円に引上げていた。そうした中、3月20日に村上氏の資産管理会社である南青山不動産が、買付価格750円での対抗的TOBを発表した。本TOBでは、既に自社とレノが保有する株式と合算して、保有比率の過半数に達する株数の応募があることを成立条件としているが、買付株式数の上限は定めず、応募された全株式を買い付けるとしている。ただし、南青山不動産側は、当面は上場廃止を企図しないとされている。本稿執筆時点(3月24日)では、廣済堂側からの意見表明報告書は提出されていない。

本件対抗的TOBは、ベインキャピタル側のTOBの買付価格の更なる引き上げを企図したものと思われ、ベインキャピタル側のTOB期間の延長と価格引上げが行われるか、今後の展開それ自体も興味深い。ただ、本稿の目的は、本件のような対抗的買収者が現われた場合の、特に買付対象企業の小口株主にかかる問題を指摘することである。それは、複数の公開買付代理人の存在とそれに伴う手続き負担である。

公開買付代理人が複数存在する悩み

TOBにおいては、応募する株主は、公開買付代理人(通常証券会社)を通じて申し込まなければならない。今回のケースでは、ベインキャピタル側はSMBC日興証券、南青山不動産側は、三田証券が公開買付代理人である。TOBに応募する場合、公開買付代理人の証券会社以外で株式が預けられている場合、保管振替機構を通じて公開買付代理人に株式を移管する必要がある。

この際、一般には次のような手続きが必要になる。すなわち、①公開買付代理人の証券会社に口座を開設する(既に口座があれば不要)、次に②対象株式を現在預けている証券会社からその証券会社の口座に移管する。①に関していえば、一部のネット証券等では、数日で口座が開設できるものの、本人証明書類やマイナンバーカードの写しの郵送(もしくはインターネットでの送付)という手間がかかる。②に関していえば、現在預けている証券会社に移管を請求するが、作業完了までに通常7日程度の日数が必要である。証券会社のホームページなどを見ると、移管手続きが完了していないと、応募を受け付けないとするケースが多く、十分に時間的余裕を持って手続きをしておく必要がある。

通常のTOBであれば、応募する株主は手間を感じながらもこうした作業を行うわけだが、今回のように2社の公開買付代理人が別々に存在し、しかも仮に今後買付価格の引き上げ競争等に発展した場合、一層困難な手続きを強要される。まず①については、もしどちらのTOBにも応募する可能性があると思えば、予め2社に口座を開設しておかなければならない。仮に①がクリアできたとしても、②においては、7日かかる手続きの移管先をどちらにするか、事前に選択しなければならない。仮に移管手続きをした後に、買付期間が延長され、買付価格が引上げられたら、移管先証券会社からもう1社の証券会社に再移管しなければならなくなる可能性もある。

このように、現状の公開買付代理人を通したTOBの仕組みでは、特に今回のように複数の対抗的TOBが起こった場合、小口株主の負担が非常に大きくなる。また、個人株主の中には、制度が十分理解できずに、応募機会を逃す(もしくは諦める)ケースもあるだろう。勿論、今回のような100%の株式の取得が示唆されているケースでは、TOBが成立すれば、応募しなかった株主にもスクイーズアウトによって、最終的には株式売却の機会が与えられる可能性がある。

しかしながら、このような手続き上の困難さによって、そもそものTOBへの応募株数が下がってしまうという問題は残る。特に今回のTOBでは、双方ともTOBが成立する条件として一定の(過半数の)株式の取得が見込めるだけの応募株数を課しているため、勝者が決まった後にスクイーズアウトで売却すれば良いと考えて、多くの株主がTOBに応募せず様子見を決め込んだ場合、最悪双方が不成立という可能性も存在する。金融経済学でいう、いわゆる少数株主のフリーライダー問題である。

筆者は金融商品取引法の専門家ではないので、現状の制度をどのように改善すべきかについて詳細に論ずるだけの知識はない。ただ、株式の保管振替制度が一般化した現在のTOB制度においては、もう少し柔軟な制度設計を考える余地があるのではないかと考え、本件を契機に問題提起をしておく次第である。

*注:筆者は、廣済堂株式を執筆時点までに保有していないことを申し添える。

(追記:2019年3月25日)3月25日、訂正公開買付届出書が提出され、ベインキャピタルによるTOBの期間は、4月8日まで延期された。また、廣済堂は同日に意見表明報告書を提出し、南青山不動産によるTOBに対する意見の表明を留保すると発表した。

文:鈴木一功(早稲田大学大学院 経営管理研究科教授)