天国と地獄(1963年)

娯楽時代劇を世に送り出した黒澤明監督が小説『キングの身代金』にインスピレーションを受け世に送り出した作品。高台の上に建つ豪邸とボロアパートに対比される格差が生み出す誘拐事件を軸に展開するサスペンスムービーだ。

【あらすじ】

MBO(マネジメント・バイアウト)資金を充てた救出劇

女性の靴を中心に手掛ける大手靴メーカー『ナショナル・シューズ』の権藤常務(三船敏郎)宛てに「子供を誘拐した」という一本の電話がかかってくる。

実際に誘拐されたのは権藤の息子ではなく、運転手の子供・進一(島津雅彦)だったが、誘拐犯はそれを踏まえて3,000万円の身代金を要求。自社の経営権を奪い取るための自社株購入費としてかき集めた5,000万円を失えない権藤だったが、最終的に身代金を支払い、進一の救助を優先する。

救出された進一の証言や電話録音などの手がかりから、捜査に当たった戸倉警部(仲代達矢)らは犯人が権藤の家の近所に住む竹内(山崎努)というインターンの男であることを突き止める。竹内はヘロイン中毒で共犯者の男女を殺し、さらに警察に泳がされている間にもう一人の麻薬中毒者を殺害。逮捕された後、死刑が確定する。

竹内の希望により面会に訪れた権藤へ、竹内は高台の上の権藤邸が天国、自分が済んでいたボロアパートが地獄と表現。持たざる者の恨みを語ったのち、発狂したかのように叫び出し、刑務官に連れていかれるのだった。


【見どころ】

世間の同情をかって「時の人」となった権藤

冒頭で権藤は他の重役から、売上の低迷を理由に時代遅れの現社長を追い出す謀略に誘われる。しかし現場の工場から現在の地位にまで上り詰めてきた権藤は、利益を追求するあまり品質をないがしろにする彼らとは手を組めないと突き放す。

女性の体重を支え続ける信頼できる靴づくりをしたいという理想を掲げる権藤は、自らが経営権を握るべく株式を買い集めるが、不運な誘拐事件のためそのチャンスを失い、会社を追い出されてしまう。

しかし権藤の身を挺した誘拐事件の救出劇は世論を味方につけ、ナショナル・シューズは攻撃される立場に。最終的に権藤は小さいながらも別の靴メーカーに誘われ経営者となり、理想を追求できる環境を手に入れる。

身代金を払って破産した権藤が人の道に外れない行動を選択した結果、最終的に理想の環境を手に入れる。本作のエンディングは、日々を生きる人間の一人として励みになるものだろう。

隣の芝生は青かった

竹内は高台の豪邸に住む権藤と、ボロアパートに住む自分自身を比較し「天国と地獄」と評し、憎しみを募らせた。しかし権藤はその地位を守るために苦しい思いをする毎日を過ごしており、必ずしも天国とは限らない。

一方の竹内も、夏暑く冬寒いというボロアパートの生活は苦しくとも、インターンとして働く日々に充実感を感じることも、また医者になるという未来へ歩む日々が地獄ばかりではなかっただろう。果たして竹内が思っているほど権藤は天国に住み、竹内は地獄にいたのだろうか。

「隣の芝生は青い」という言葉があるが、全てを失いかけた権藤へ、自業自得で死刑となった竹内が想いをぶつける姿に、自らが置かれた環境の素晴らしさを今一度見つめなおすきっかけを得られることだろう。

<作品データ>
題名:天国と地獄
1963年・日本(2時間23分)

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文:M&A Online編集部