ビズサプリの久保です。
このたび「東芝事件総決算」という本を日経新聞出版社から上梓することになりました。この本では、東芝の不正会計とその後3年間の会計処理について、いくつかのテーマに分けて分析しました。すこし厚めの本ですが、図を多用して、できるかぎり分かりやすく書きました。6月中旬には書店に並ぶ予定です。お読みいただければ幸いです。

さて、今回は、この本のテーマの一つである米国会計基準について検討したいと思います。

1.なぜ、日本の上場企業が米国会計基準を採用できるのか

東芝は日本の上場会社ですので、有価証券報告書(有報)を提出していますが、そこに含まれる連結財務諸表の作成基準は、本来であれば日本基準です。しかし、報道でも分かるように東芝は米国会計基準を採用しています。
実は、米国に上場している会社(SEC登録会社)は、日本の有報の連結財務諸表を米国会計基準で作成してもよいという特例があります。
これは、米国会計基準に加えて日本基準で連結財務諸表を作成する負担を軽減するために設けられた特例です。この特例を受ける会社は、米国基準で作成した連結財務諸表とその注記を和訳して、有報に掲載しています。この特例は、連結財務諸表のみを対象にしています。単体の財務諸表は日本基準でなければなりません。
東芝を含む日本の上場会社の何社かは、米国上場を廃止したのに米国会計基準で有報の連結財務諸表を作成しています。これは、連結財務諸表制度導入前より米国基準で有報を提出している会社は、米国上場を廃止しても「当分の間」そのまま認められることになっているからです。
米国上場というのは、具体的には米国預託証券(ADR)をニューヨーク証券取引所やナスダック市場に上場することを言います。ADRは、米国以外の国で設立された企業が発行した株式を裏づけとした有価証券です。

2.米国上場廃止ラッシュ

昨年の3月に「NY上場廃止ラッシュ」という記事が日経新聞に掲載されました。
この記事のきっかけはNTTが米国上場廃止を発表したことです。その前の年の2016年には日本電産やアドバンテストも米国上場を廃止しています。そして、今年なってNTTドコモが昨年からの予告どおり上場廃止し、2月には京セラもこれに続きました。
日経新聞によるとNTTの上場廃止の理由を「証券市場をめぐる環境が変わり、上場を維持する必要性が低下した」としています。ソニー、トヨタ、ホンダなどに比べると知名度が低く、米国市場での取引量が少ないのが現状なのだと思います。
日本企業が米国に上場する理由の一つは、米国での知名度を上げることです。
しかし、米国上場を維持するためには米国会計基準での連結財務諸表の作成だけでなく、日本より厳しいと言われる会計監査と内部統制監査(US-SOX監査)を受ける必要があり、そのための労力とコストがかかります。
実はそれだけでなく、米国上場会社は米国企業とみなすという米国の法律がいくつかあります。特に海外腐敗行為防止法(FCPA)は、米国企業による外国の政治家や官僚への賄賂を禁止する法律です。これに違反すると信用失墜するだけでなく、巨額の課徴金が課されることから、コンプライアンス対策に多額のコストがかかります。
そういうコンプライアンス上の問題も米国上場廃止の理由と考えられます。
日本のグローバル企業で、米国上場していた会社は40社近くあったと思いますが、今は11社になりました。