そもそも連結会計とは何なのか?

M&Aに連結会計はつきもの

M&Aによって新たに子会社が加わった場合、通常、その子会社はグループ全体の決算である連結決算に含まれることになります。グループ経営を行っている企業では、たとえば親会社単体の決算だけを見ていても経営の全体像はつかめません。そのため、有価証券報告書などの開示書類においては、投資家に有用な情報を提供するという観点から、グループの親会社が連結財務諸表を作成し、表示することが義務付けられています。

連結会計、すなわち連結決算書あるいは連結財務諸表を作成するメカニズムは会計技術的なものではありますが、その基本的な仕組みを理解しておけば、決算発表やM&A関連のニュースをより深く理解することにもつながります。

そこで、今週から計4回にわたり、「こっそり学ぶ連結会計とM&A」と題して、M&Aをよりよく理解するための連結会計の仕組みについてご紹介していきたいと思います。第1回目となる今回は、連結会計とは具体的にどのようなものを指し、どのような思考にもとづいて作成されるものなのかについて解説いたします。

連結会計の目的と開示制度

たとえば、家電製品を製造している親会社Aとその製品を販売する子会社Bがあるとします。親会社Aは、前年比で売上を大幅アップさせる必達目標を掲げ、生産計画にもとづき製品を生産しました。生産した製品はすべて子会社Bに販売されましたが、今期の製品市場での需要は低迷し、製品は子会社Bに滞留在庫として保有されたままとなっています。

この状態で決算を迎えた場合、親会社Aの単体決算を見ると、売上は前期比で大幅アップという結果になりますが、親会社Aと子会社Bという企業集団で考えると、製品は外部に売れていないことになり、滞留在庫を抱えたまま決算を終えたということになります。親会社Aと子会社Bはいわば運命共同体。投資家が適切な経済的意思決定をするためには、親会社Aの単体決算だけでなく、子会社Bも含めた連結決算の数値が不可欠です。

このような考えのもと、上場会社など有価証券報告書を作成する企業では、1977年4月開始事業年度から連結財務諸表が個別財務諸表の付属書類として開示されるようになりました。その後、日本企業の多角化や国際化がより一層進むにつれて、個別財務諸表よりむしろ連結財務諸表を中心としたディスクロージャー制度とすべきという機運が高まり、1997年6月には大蔵省(当時)企業会計審議会から「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」が公表されました。

この意見書により、従来の会計ルールである連結財務諸表原則が見直されるとともに、連結と単体の主従関係でも連結決算中心主義に転換するなど種々の見直しが行われました。実務上も2000年3月期からは有価証券報告書での記載順序も連結財務諸表が前、個別財務諸表が後というように改められ、現在に至っています。

連結財務諸表の種類とは

連結会計の構造は、簡単にいうと、グループ各社の貸借対照表や損益計算書などの決算書を合算して、グループ会社間の債権債務や取引を消去したものです。

決算書を合算するだけでは、上記の家電メーカーの例でいうと、親会社Aにおける「子会社Bへの売上高」と子会社Bにおける「親会社Aからの仕入高」が二重に計上された状態になります。これらの取引はグループ全体を1つの報告単位として考えた場合は相殺されるべきものであるため、消去手続が必要になるというわけです。

日本基準が適用される上場会社を前提とすると、現行制度で作成すべき連結財務諸表は「連結貸借対照表」、「連結損益計算書」、「連結包括利益計算書」、「連結株主資本等変動計算書」、「連結キャッシュ・フロー計算書」となります。

連結財務諸表の種類
連結貸借対照表
連結損益計算書
連結包括利益計算書
連結株主資本等変動計算書
連結キャッシュ・フロー計算書

作成に際して従うべきルールとしては、民間の会計基準設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が公表している企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」などの会計基準、日本公認会計士協会(会計制度委員会)が公表している会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」や会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」などの実務指針、金融庁が公表する「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」などの内閣府令があります。

連結会計の作成ルール

制度設定主体
会計基準 公益財団法人財務会計基準機構(FASF)、企業会計基準委員会(ASBJ) 企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」など(外部リンク)
実務指針など 日本公認会計士協会(会計制度委員会) 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(外部リンク)、会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(外部リンク)など
内閣府令 内閣府(金融庁) 「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(外部リンク)など

筆者作成

親会社説」と「経済的単一体説」とは

連結財務諸表を誰の視点で作成するかという考え方を「連結基礎概念」と呼びます。連結基礎概念には、大きく分けて「親会社説」と「経済的単一体説」の2つの考え方があります。

親会社説は、連結財務諸表を親会社の株主の視点で作成するという立場です。この説では、連結財務諸表は親会社の財務諸表の延長線上という性格を持ちます。また、連結財務諸表に反映させるべき持分は、親会社の株主の持分のみという考え方になります。

これに対して、経済的単一体説は、連結財務諸表を親会社と子会社におけるすべての株主の視点で作成するという立場です。この説では、連結財務諸表は親会社とは区別される企業集団全体の財務諸表という性格を持ちます。また、連結財務諸表に反映させるべき持分は、すべての連結会社の株主の持分を反映させる考え方です。

連結会社の考え方

連結基礎概念連結財務諸表作成の視点連結財務諸表の性格連結財務諸表に含まれる持分の考え方
親会社親会社の株主の視点 親会社の財務諸表の延長線上にあるもの 親会社の株主に帰属する持分のみを反映
経済的単一体説 親会社と子会社におけるすべての株主の視点 親会社とは区別される企業集団全体の財務諸表 企業集団を構成するすべての会社の株主の持分

筆者作成

我が国においては、連結財務諸表制度が導入された当初は親会社説を採用していました。しかし、一般的に経済的単一体説に立つといわれるIFRSとの収斂という観点から、徐々に経済的単一体説と整合する会計処理が取り入れられてきました。現行の連結会計基準では親会社説を踏襲しているものの、実質的には経済的単一体説を採用したものと評価されています。親会社説と経済的単一体説で具体的な会計処理にどのような違いが出てくるのかについては、また次回以降に紹介することにしましょう。

連結と単体で異なる会計処理

さて、有価証券報告書などでは連結財務諸表と個別財務諸表の両方を開示することになりますが、両者で異なる会計処理が行われている場合もあるため注意が必要です。

たとえば、退職給付会計が挙げられます。退職給付会計とは、退職年金や退職一時金などの退職給付に関する企業の負担を負債として計上するものです。従来は、積立不足を意味する未認識債務を連結貸借対照表に一時に認識しないで毎年徐々に計上していく処理が認められていましたが、2014年3月期からは未認識債務は連結貸借対照表に即時に計上する処理となっています。

ただし、これは連結貸借対照表での処理であり、個別の貸借対照表では従来の方法が認められています。そのため、連結財務諸表と個別財務諸表では会計処理が異なることとなり、負債の名称自体も連結貸借対照表では「退職給付に係る負債」、個別の貸借対照表では「退職給付引当金」というように区別されています。

また、親会社の個別財務諸表では、子会社への投資額が子会社株式という科目で計上されますが、企業集団全体の連結財務諸表を作成する過程では子会社への投資額は消去されますので、子会社株式という科目は現れません。そのため、子会社株式に対する減損処理や子会社株式を売却した際の会計処理にも自ずと違いが生じます。

さらには、IFRSを任意適用している企業の場合、連結財務諸表はIFRSにもとづいて作成されますが、個別財務諸表は日本基準にもとづいて作成されますので、やはり連結財務諸表と個別財務諸表とでは会計処理が異なることになります。

以上のように、連結会計の基本的な仕組みを知っているのと知らないのとでは、開示されている決算内容の本来的な意味の理解という点で大きな差異が出てきます。次回以降は、決算内容やM&Aの処理の理解に役立つ連結手続のより具体的な知識に踏み込んでいくことにしましょう。(次回に続く)

文・北川ワタル(公認会計士・税理士)