新聞、不動産、鉄道まで広がりを見せるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)

近年、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(Corporate Venture Capital)を活用する企業の業種に広がりが見られる。CVCは潤沢な資本を有する事業会社が自社の戦略目的でベンチャー投資を行うものである。自社グループ内の研究開発だけでイノベーションを起こすのではなく、有望なベンチャーと協働することで自社のシナジーにつなげることを目的とする。

従来のCVCといえば、通信やIT業界というイメージがあったが、ここ1、2年の間に新聞、不動産、鉄道など、かつてはベンチャー投資とは無縁だった業種の参入が相次いでいる。以下では、いくつかの事例を紹介したい。

事例1:JR西日本イノベーションズ(JR西日本<9021>

2016年12月にJR西日本の100%子会社として設立されたJR西日本イノベーションズは投資枠30億円を有するCVC運営会社だ。外部のイノベーションを取り込むことで、鉄道事業の持続や新たな事業創造に役立てることを目論む。

同社HPによると、JR西日本グループとシナジーを生む事業分野としては、流通業、不動産業、ホテル、旅行、広告業などが挙げられており、シードからレイターまであらゆるステージのITテクノロジー企業が対象となるようだ。

設立直後の2016年12月に商業施設の店舗情報アプリ「NEARLY(ニアリ)」を運営する株式会社ipocaに対する投資を発表したのを皮切りに、2017年6月には古民家再生事業のNOTE、2017年8月には法人向け業務用アプリケーション開発基盤を提供する株式会社ユニフィニティーに対する投資を発表するなど積極的な動きを見せている。

JR西日本イノベーションズHP http://www.jrw-inv.co.jp/

事例2:朝日メディアラボベンチャーズ(朝日新聞社)

2017年4月には朝日新聞社の100%子会社として朝日メディアラボベンチャーズが設立された。同社HPには「朝日グループとのシナジーがない投資も行う」とうたわれているため、純然たるCVCではないかもしれないが、新たなライフスタイルを創出する企業に投資する方針を掲げており、朝日グループの将来戦略を意識したCVCと位置付けられる。

投資のターゲットとしては、インターネット、テクノロジー、メディア関連企業のアーリーステージを中心に、シードからレイターまで幅広く投資する模様だ。現在は、30億円規模のファンドを目指し、「朝日メディアグループ1号投資事業有限責任組合」への募集を行っている最中である。

朝日メディアラボベンチャーズHP:https://asahimedialab.vc/

事例3:31 VENTURES(三井不動産<8801>

三井不動産は、2015年4月にベンチャー共創事業部を設立した。CVC子会社という形式ではないものの、コワーキングスペースの31 VENTURES(サンイチベンチャーズ)を展開するとともに、総額50億円の「31VENTURES Global Innovation Fund1号」を組成することでCVCに参入している。

投資対象地域は、日本を中心に北米、欧州、イスラエル、アジア諸国としており、投資のターゲット企業は、アーリーステージを中心として、シードからミドル期にあるベンチャー企業としている。シナジーの対象としては不動産、IoT、セキュリティー、環境およびエネルギー、シェアリングエコノミーなどを想定しているようだ。

2016年7月、住宅の間取りシミュレータの開発や家具・インテリアなどのデータベース運営を行うリビングスタイルが、CVCファンドによる第1号の投資先として選ばれた。そのほか、2016年11月には人と協働する「コ・ロボット」を開発する

ライフロボティクス、2016年12月には建設業界向けにドローンを使ったサービスを提供するイスラエルのDronomy、2017年2月には商業用不動産やローンなどの情報をクラウドデータとして提供する米国のCrediFiなどに投資している。

直近では、2017年8月、個人間のお金の貸し借りを記録できるアプリ「よろペイ」を展開するPopshootに投資を実行したことを公表している。「よろペイ」は2016年8月のリリース以降、個人間の立替を精算できる機能なども実装し、ユーザー数を拡大させているサービスだ。このようなFinTech企業への投資をCVC経由で行うケースは近年特に多くなっている。

31 VENTURES(サンイチベンチャーズ)HP:http://www.31ventures.jp/

CVCの典型的なスキーム

CVCのスキームは様々だが、よく見られるスキームとしては、CVC子会社がGP(無限責任組合員)となって投資事業有限責任組合を組成し、事業会社や金融機関がLP(有限責任組合員)として出資を行うというものがある。

図表1:通常のベンチャーキャピタル・ファンドとCVCファンドの違い

出典:プライスウォーターハウスクーパース マーバルパートナーズ株式会社 コーポレートサイト 「CVCファンドを活用した事業シナジー創出で押さえておくべき5つの視点  青木 義則」

ただし、CVCの立上げにはスキーム検討、ファンドの組成、投資基準の策定、投資委員会の選定、案件発掘の仕組化などクリアすべき課題も多い。そのため、CVC設立の支援を行うコンサルティングファームを活用したり、CVCファンドの運営をVCなどに委託したりする場合もある。

上述の三井不動産の例では、そもそもCVC子会社を設立しておらず、「31VENTURES Global Innovation Fund1号」の運営はハンズオン投資の経験が豊富な、グローバル・ブレイン社が担っている。

技術革新のスピードが早い現代社会において、CVCおよびオープンイノベーションの活用は国際的な潮流でもある。特に、組織の意思決定が硬直化しやすい大企業においては、イノベーションを生み出し、成長を達成するための活路として、今後も様々な業種でCVCが利用されていくものと考えられる。

文:M&A Online編集部

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