役員報酬について

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 梅雨明けが待たれる毎日ですが、お元気でいらっしゃいますでしょうか。6月と言えば、3月決算の会社では、有価証券報告書の提出や株主総会の開催等大きなイベントが待っています。有価証券報告書の作成や監査対応、株主総会での想定問答集の作成等、お忙しくされている方も多いと思います。

 株主総会開催前のこの時期は、役員報酬に関する記事を新聞等でよく見かけます。ソフトバンクグループが退任報道で話題となっているニケシェ・アローラ副社長に支払った前期の役員報酬が約80億円であり、日本企業で過去最高を記録した、という記事。LIXILグループの瀬戸社長が年間報酬の全額を株式で受け取る方式に改めたという記事。ソニーの平井社長の報酬が前期比2.5倍の5億1,300万円となった記事等が報道されました。

 こんなに多額の役員報酬をもらっているのは、私たちからしてみれば大変羨ましい限りです。今回は、役員報酬について考えてみたいと思います。

1.コーポレートガバナンス・コードと役員報酬

 2015年6月1日より、わが国企業の収益力・稼ぐ力の向上や、中長期的な企業価値向上に向け「コーポレートガバナンス・コード」の適用が開始されました。こうした取り組みの一つとして、会社役員へのインセンティブ制度の導入を促進することが求めてられています。

 その背景には、日本企業の役員報酬は依然として固定報酬中心であり、欧米と比較して業績連動報酬や株式報酬の割合が低く、業績向上のインセンティブが効きにくい状況であること。それに加えパフォーマンス・シェアやリストリクテッド・ストックといった欧米で一般的に利用されている株式報酬の手法が未発達であり、その結果、こうした報酬体系の違いからグローバルに経営人材を獲得し、優秀な経営人材の獲得が難しくなることがあります。

 アメリカでは時価総額の高い上場企業60社のCEO報酬平均が18億円程度にくらべ、日本の上場会社の社長の報酬水準は、上位10%でも1億円程度です。アメリカでは報酬が高すぎると言われているものの、アメリカと日本の社長報酬額の差はかなり大きくなっています。

 役員報酬は多ければ良いわけではありません。多額のインセンティブが強引な経営や粉飾決算の要因になることもあるし、インセンティブも何に連動させるか十分に考えなければ思わぬ副作用を招きます。かといって定額では役員が粉骨砕身しません。コーポレートガバナンス・コードは、役員に的確な動きを促す仕組みとして役員報酬をしっかり設計することを求めていると言えます。

2.役員報酬の区分

 役員報酬は、「基本報酬」、「短期インセンティブ報酬」、「長期インセンティブ報酬」に区分されます。

 基本報酬は、経営者の職務内容、能力、過去の実績等をもとに決定される固定の金銭報酬で、業績等によって変動しない報酬です。

 短期インセンティブ報酬は、1年で決済される役員報酬です。その代表格が役員賞与です。役員賞与の具体的な支給額の決め方は様々ですが、一定の業績指標の達成状況に応じて支給額が決定されるのが通常です。業績指標の数値が一定水準に達しないときは、残念ながら役員賞与は支給されないこととなります。

 長期インセンティブ報酬は、経営者に対して一定のインセンティブを与えることを目的とした報酬です。長期インセンティブではストックオプションが一般的ですが、株式交付信託、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付き株式)、パフォーマンス・シェアなどがあります。

 役員報酬全体に占める役員報酬区分を日本とアメリカで比較すると、日本では、基本報酬64%、短期インセンティブ報酬20%、長期インセンティブ16%となっており、アメリカでは、基本報酬11%、短期インセンティブ報酬22%、長期インセンティブ報酬67%となっています。基本報酬と長期インセンティブ報酬の割合が逆になっていることが明確となっています。

3.長期インセンティブ報酬

 ストックオプションは自社の株式をあらかじめ定められた行使価格で購入する権利です。株価が長期間低迷している状態ではインセンティブ機能が十分に発揮されないことから、権利行使価格を1円など低廉な価格とすることで株式保有と類似した状態を実現する株式報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)の利用が近年増加しています。

 株式交付信託は、報酬相当額を信託に拠出し、信託が当該資金を原資に市場等から株式を取得した上で、一定期間経過後に役員に株式を交付する報酬プランです。

 リストリクテッド・ストックは、一定期間の譲渡制限が付与された現物株式を役員に付与するものです。リストリクテッド・ストックを付与された役員は譲渡制限が解除されるまで株式を譲渡できないため中長期的な株価向上のインセンティブが継続されます。

 パフォーマンス・シェアは中長期の業績目標達成度合いに応じて現物株式を交付するものです。

 リストリクテッド・ストックやパフォーマンス・シェアは欧米では広く使われていますが、日本ではあまり活用されていません。今後は広く導入されるよう、会社法や税法の改正も始まってるようです。今後は、わが国でも採用する企業が増えてくるものと思われます。

文:株式会社ビズサプリ メールマガジン(vol.031 2016.06.21)より転載

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