数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。

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ネタばれ覚悟でお知らせしよう。この本に書かれていることは、ただ一つ。「利益と儲けは違う」だ。「なんじゃそりゃ?」と思われるかもしれない。しかし、一見、不可解なコトに「真実」は宿っている。それをマンガでわかりやすく解説してくれているのが本書だ。

そもそもピーター・ドラッカーはマネジメント理論の権威であり、会計とは縁がなさそうなイメージがある。だが、ドラッカーが会計に興味がなかったわけではなかった。当然である。そもそも会計がわかっていなければ経営は語れない。そのドラッカー、会計については意外な評価を下している。

それは「事業の目標として利益を強調することは、事業の存続を危うくするところまでマネジメントを誤らせる」。つまり会計の中心概念である「利益」を否定しているのだ。なぜなら「会計学の二年生でさえ損益計算書は化粧できるから」だ。

1+1の答えを質問され、数学者が「2」、統計学者が「誤差を考慮すれば、おおむね2」、会計士が「1+1をいくつにしたいんです?」と答えたというブラックジョークのような話だが、現実に東芝<6502>や映像コンテンツ制作、ビジネスプロデュースなどを手がけるディー・エル・イー<3686>、愛知県の中堅食品スーパーのドミーなど不適切な会計は後を絶たない。

ドラッカーが重視するのは帳簿で容易に操作できる「利益」ではなく、稼いだ現金=キャッシュフローに裏打ちされた「儲け」である。経営で最も重要なのは将来にわたり価値を創造し続け、新たなキャッシュフローを生み出し続けること=利益創出力なのだ。

さらに会計の問題として、「損益計算書を穴のあくほど眺めても、使った金額しかわからない。コストが利益を生み出すのに使われたか、ムダに使われたかは決して見えてこない」とも指摘している。ドラッカーは「好況時に予算を増額し、景気にちょっとしたかげりが見えてきただけでそれを減額するような場当たり的な方法」を否定した。つまり「短期の利益を捻出するために支出を削減することは将来のキャッシュフローを放棄するようなもの」なのだ。耳の痛い経営者も多いだろう。

もちろん、ドラッカーは「コスト削減」を全否定しているわけではない。彼が否定しているのは、誰もが思いつく「全社一律のコスト削減」だ。コスト削減の対象とすべきは「コストの90%を消費している価値を生まない90%の活動」である。実はそれがその企業の花形事業であったり、社運をかけた一大プロジェクトであったりする。だからマネジメントは判断を誤り、キャッシュを生む「儲け」ではなく操作可能な「利益」の計上に走ってしまうのだ。

ドラッカーは、こうも言う。「コスト削減の最も効率的な方法は、活動そのものをやめることである」。破綻寸前に追い込まれた企業が花形事業を手放さざるをえなくなる、あるいはかつての花形事業から手を引くことで再び成長軌道に乗る、そうした企業はいくつも思い当たるだろう。

本書は身売り寸前に追い込まれた元銀行員のレストラン経営者が、偶然となりの席に座った巨大小売業グループのトップからドラッカーをテーマに経営の助言を得るという形式でストーリーが展開していく。マンガだけに1時間もあれば読破できる。週末におすすめの一冊だ。

コミック版 ドラッカーと会計の話をしよう (林 總 著・KADOKAWA/中経出版)

文:M&A Online編集部