数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。

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有森 隆著『社長解任   権力抗争の内幕』 さくら舎刊

権力・富・名誉があるところに、お家騒動あり。

本書の書き出しはこう始まる。「黒田騒動」で知られるように江戸時代のお家騒動は大名家を連想するが、現在のそれは企業の権力闘争にほかならない。企業はビジネスの場であると同時に、社内政治の場である、と著者は言い切る。

社長解任
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経営の主導権争いは会社の規模を問わず、大なり小なりつきもので、しばしば派閥が生まれる。その派閥抗争が最も先鋭化するのが社長の座の争奪戦であるのは間違いない。

本書は誰でもが知っているような大企業10社にスポットをあて、その権力抗争の内幕をえぐりだしている。実はこの本、2016年2月に出版されたが、カリスマ経営者である会長が一転、容疑者となった「日産騒動」が起きて、改めて読み返してみたくなった一冊だ。もちろん、日産自動車<7201>も取り上げられている。

日産にはかつて3人の「天皇」が君臨した。1970年代後半からの川又克二(第9代社長)、石原俊(第11代社長)、塩路一郎(自動車労組会長)による社内抗争が日産没落の元凶というのだ。会社を牛耳る労組のボス・塩路と日本興業銀行出身の川又が蜜月関係を結び、生え抜きの実力者・石原と激しく対立。日産の経営は迷走を続け、トヨタ自動車との差を縮めるどころか、フランスのルノーへの事実上の身売りにつながった。

窮地の日産を再生し、名経営者とうたわれてきたカルロス・ゴーンも1999年からトップ在任は20年近くに及ぶ。著者は「独裁者でなければ統治できない企業体質そのものに、日産の敗北の根本原因があることは、今も昔も、ずっと変わっていないのである」と結んでおり、いかにも予見的だ。

「日産騒動」の背後には、ルノーとの経営統合に前向きなゴーン会長とこれに反発する経営陣との確執があったと伝えられるが、今のところ、事の真相はやぶの中だ。

日産以外に取り上げた会社はトヨタ自動車、関西電力、住友銀行(現三井住友フィナンシャルグループ)、フジサンケイグループ、新日本製鉄(現新日鉄住金)、神戸製鋼所、JR、帝国ホテル、東芝。

トヨタでは創業家と非創業家の暗闘、新日鉄では合併会社(八幡製鉄と富士製鉄)につきものの出身母体企業同士の主導権争いを描いている。関電・芦原義重名誉会長、住銀・磯田一郎会長はともに社内でドンの異名をとったが、クーデターで地位を滑り落ちた。フジサンケイでは鹿内家支配を排除するための造反が起きた。

神鋼ではその昔、社長と次をうかがう副社長の対立が裏社会を巻き込む内紛に発展した。JRではいわゆる“国鉄改革3人組”による確執が今も尾を引く。世界の賓客を迎えてきた帝国ホテルだが、戦後は内紛の歴史だったという。財界の名門・東芝の経営危機も根底にあるのは歴代社長が繰り広げた抗争にある。

権力抗争を突き動かすエネルギーとは?  「嫉妬と憎悪だ」と著者は見立てる。

嫉妬や憎悪は、しばしば、正義の仮面をかぶって現れるものだとの指摘は経営者ならずとも、組織で働く者にとって重く響くに違いない。

文:M&A Online編集部