数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。

・ ・ ・ ・ ・

『日産自動車 極秘ファイル2300枚』    川勝 宣昭著  プレジデント社刊

カルロス・ゴーン前会長の逮捕で揺れる日産自動車。

日本を代表する大企業でありながら、その昔、同社は労組が経営を牛耳る異常な労使関係のうえに成り立っていた。関連会社を含めた23万人の組合員の頂点に立つのが塩路一郎。「塩路天皇」と呼ばれ、絶対的権力者として四半世紀にわたり君臨した。労使の歪んだ関係は経営の停滞をもたらし、トヨタ自動車との差は広がるばかりだった。

打倒塩路の戦いにたった一人で挑んだサラリーマンがいた。当時40歳前、広報室渉外課長だった筆者がその人だ。

やがて同志7人による秘密組織の活動となり、昼は普通に仕事をし、夜はアジト転々と変えながら作戦の立案や修正にあたる二重生活を続けた。労組からは敵対視され、尾行がついたという。ゲリラ戦で揺さぶり、相手側を内部から切り崩し、次第に組織戦を仕掛け、労組の首領を追い詰めていく。

塩路は「労組の指導者が銀座で飲み、ヨットで遊んで何が悪いのか」とうそぶき、「労働貴族」の異名でも知られた。7年に及ぶ死闘の末に、塩路は1986年についに失脚するが、最終的にダメを押したのは塩路の金と女のスキャンダルをめぐる写真週刊誌の報道だった。これをお膳立てしたのも著者らの秘密活動による。

本書は実際の出来事をありのままに記したノンフィクション。昨年12月末に発売された。日産の「正史」、つまり表の歴史には出てこない、これまで語られることのなかった隠された戦いの記録の全貌を収めている。

著者らが戦いの渦中にいた時、日産社長に就いていたのが石原俊(在任1977~85年)。石原は生産現場を支配し、経営に介入する塩路体制との対決姿勢を鮮明にした。反塩路派待望の戦う社長の登場だったが、他の役員たちは皆傍観を決め込んでいたという。労組の大反対に遭いながら、石原が計画した英国工場進出が成就するまでの秘話の数々も明かされる。

労組との戦い方を学ぶため、国鉄の職員局職員課長だった葛西敬之氏(現JR東海取締役名誉会長)を訪ねる場面もある。同氏は国鉄の現場を支配していた労組と戦いの前面に立ち、分割民営化を推進するキーマンの一人。国鉄と日産の労使関係は酷似していたのだ。

本書は30年数年前を舞台とするが、日産の現状を考えるうえで今日的意味を持つ。

塩路退陣で日産は経営のフリーハンドを手にしたはずだったが、業績は上向かず、ルノーからゴーンが救済にやってきた。しかし、19年に及ぶ統治の間にゴーンが今度は新たな絶対的権力者となり、自ら再建した会社から収奪を始めた。その不正が発覚して日産を去ることになり、同じ歴史が繰り返された形だ。

著者はゴーンが日産入りする数年前に退社。永守重信氏率いる日本電産に移り、M&A担当の取締役などを務めた。

文:M&A Online編集部