数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。
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『業界メガ再編で変わる 10年後の日本』 渡部 恒郎著 東洋経済新報社刊
タイトルの通り、「10年後」をキーワードに企業や業界がどうなっていくのか、国内のM&A(合併・買収)動向を踏まえて明らかにしたのが本書。著者は中堅・中小企業のM&A仲介最大手、日本M&Aセンター<2127>のトップコンサルタントとして鳴らす。
日本では人口の減少が始まり、成熟経済とはいえ、すでに衰退期に近いとされ、市場は飽和状態にある。 すべての業界で再編が避けられない時代に突入していると言い切る。
様々なM&Aに関与してきた経験をもとに、著者が提唱するのが「業界再編5つの法則」。
法則1は「どの業界も大手4社に集約される」。例えば、医薬品卸。かつて350社がひしめき合ったが、メディバルホールディングス、アルフレッサホールディングスなど4社を中心に集約され、再編が一段落した。家電量販店はヤマダ電機、ビックカメラ、ヨドバシカメラ、エディオンが4強。大手銀行も4大グループ体制が定着した。今後、地方銀行、信用金庫、ソフトウエア受託開発、電気・空調工事業界で再編が加速するとみる。
その2は「上位10社のシェア10%、50%、70%の法則」。その業界で売上上位10社のシェアが10%になると「成長期」に入り、業界再編が始まる。50%になると「成熟期」で、大手が中堅や地域のトップ企業を買収するなど業界再編はピークを迎える。
そして70%まで進むと、今度は上位10社の統合が始まり、「衰退期」で4社程度に集約され、合計90%のシェアに到達したところで再編が完了する。セメントやガラス、医薬品卸などが再編の最終段階にある。
もう一つ紹介すると、「6万拠点の法則」。国内6万拠点という臨界点(2200人の1拠点)に達すると、再編が起きて自然淘汰されていくというのだ。ガソリンスタンド、コンビニ、歯科医院、そして現在再編が活発化する運送会社、調剤薬局、人材派遣業があてはまるという。
業界のライフサイクルに応じて、中堅・中小企業は再編型M&Aに否応なく巻き込まれていく。同時に、中堅・中小企業の多くは世代交代に伴う事業承継問題に直面し、M&Aがその解決策として注目されている。M&A時代における経営者のとるべき選択肢について、持論を展開する。自身、企業・業界の浮沈を見続けてきただけに、説得力がある。
食品、IT、建設・設備工事、医療、介護、調剤薬局、会計事務所、物流、製造の各業界について「10年後」を展望している。業界地図がどう塗り変わるのか興味深い。
実は本書、2017年12月の発売から1年を経過しているが、読み進むほどに著者の見立てが当を得ていることに関心させられる。
文:M&A Online編集部
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