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「自社株式を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置の創設 2018年度(平成30年度)税制改正で」しっかり学ぶM&A基礎講座(7)
自社株式を対価としたM&Aは制度上すでに可能となっているが、実務上は円滑な利用を阻む一定のハードルが存在する。2018年度(平成30年度)税制改正では、このハードルをなくし、先行する諸外国並みに利用しやすい環境整備を目指す。
東証の「適時開示」ベースで、2月の買収案件(経営権の異動を伴う子会社化など。ただし、グループ内再編は除く)は53件となり、前月比より9件増えた。日本企業による海外企業の買収(IN-OUT型)が9件と比較的活発で、三井物産<8031>は豪石油・ガス資源会社AWEを512億円で公開買い付け(TOB)するほか、コシダカホールディングス<2157>は女性向けフィットネスクラブの米カーブスを約185億円で傘下に収める。マグロ運搬船運航の東栄リーファーライン<9133>をめぐるTOBは1月に不成立に終わったばかりだが、買付価格を見直して再TOBが2月8日から始まった。
東証の適時開示は上場企業(東京、名古屋、福岡、札幌の各証券取引所上場)に義務付けられた「重要な会社情報の開示」のことで、公正な株価形成と投資家保護を目的とする。さまざまな開示情報のうち、ここでは子会社化、事業譲受のいわゆる買収案件についてM&A Online編集部が集計した。
2月中に発表された買収52案件のうち、IN-OUT型は9件と全体の2割近くあった。文化シヤッター<5930>はガレージドア製造の豪アークパック・ガレージ・ドアーズの全株式を54億円で取得。文化シャはこれまでベトナムを中心に海外事業に取り組んできたが、その活動範囲を豪州にも広げるのが狙いだ。新東工業<6339>は英国の鋳造設備メーカー、オメガの株式を約9.7億円で追加取得し、子会社化した。駐車場管理システム大手のアマノ<6436>は米サービス・トラッキング・システムズからバレットパーキングサービス事業を約23億円で譲り受けた。バレットパーキングサービスとはホテル、レストランなどで車のキーを係員に預けると運転手に代わって駐車するサービスのこと。
アジア企業の買収もあった。小森コーポレーション<6349>がインドの販売代理店、リネットジャパングループ<3556>がカンボジアの小口金融機関であるチャムロン・マイクロファイナンスをそれぞれ子会社することを発表した。
なかでも、M&Aを足場に世界に打って出るというのがコシダカHDだ。同社は、米国発の女性向けフィットネスクラブとして知られる「カーブス」を全国1860店展開するが、その“本家”を買収して世界的なフランチャイザーの立場となるのだ。3月中に株式取得を完了する。
上場企業同士が当事者になるケースは3件。大和ハウス工業<1925>は子会社を通じて、駐車場関連機器のテクニカル電子<6716>にTOBを実施し、約17億円で全株式の取得を目指す。RIZAPグループ<2928>はゲームソフト販売のワンダーコーポレーション<3344>をTOBと第三者割当増資引き受けにより子会社化することを発表。また、太陽誘電<6976>はコンデンサーを主力とするエルナー<6972>の第三者割当増資を50億円で引き受けて現在22%の出資比率を63%まで引き上げ、子会社化(4月)する。
主要案件(金額上位) | 内容(社名は一部略称) |
---|---|
1 三井物産 | 豪の石油ガス資源会社AWEの全株式をTOBで取得(512億円) |
2 コシダカHD | 女性向けフィットネスの米カーブスを完全子会社化(185億円) |
3 RIZAPグループ | ゲーム・音楽ソフトのワンダーコーポレーションを子会社(70億円) |
4 文化シヤッター | ガレージドア大手の豪アークパックを完全子会社化(54億円) |
5 太陽誘電 | コンデンサー製造のエルナーを子会社化(22%→63%。50億円) |
6 日本アジアグループ | デジカメ開発のザクティHDを完全子会社化(24.9億円) |
7 アマノ | 米社から、バレットパーキングサービス事業を取得(23億円) |
8 新川 | 電子部品実装装置のパイオニアFAを完全子会社化(21億円) |
9 三菱地所 | 丸ノ内ホテルにTOBを実施し、子会社化(31%→99%。19億円) |
10 ユーグレナ | 健康食品・化粧品のフックを完全子会社化(18億円) |
これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。
自社株式を対価としたM&Aは制度上すでに可能となっているが、実務上は円滑な利用を阻む一定のハードルが存在する。2018年度(平成30年度)税制改正では、このハードルをなくし、先行する諸外国並みに利用しやすい環境整備を目指す。