コロナ禍でも外食企業のM&Aは活発に行われています。特にノンコア事業の外食子会社の切り離しが目立ちます。新型コロナウイルスで会社全体が大打撃を受け、経営資源を本業に集中するために周辺事業の外食を売却するというものです。買い手は飲食業専門の企業や経営者。飲食店の経営難易度はこれまで以上に上がりますが、あえて難局に挑む姿が浮かびます。一方で親会社から切り離されたことで、業態転換や退店を迅速に行えるようになります。
また、コロワイドのように非日常食業態が日常食業態を買収したり、デリバリー、EC、テイクアウトなどに出資するケースも多くあります。これは外食を取り巻く環境の変化に合わせたものです。
この記事では以下の情報が得られます。
・緊急事態宣言後の外食企業M&A一覧
・外食業界の動向
いち早くゴーストレストランに出資した丸亀製麺

話題をさらった、コロワイド<7616>の大戸屋ホールディングス<2705>への敵対的TOBが成立しました。大戸屋株の保有比率は19.16%から46.77%となり、グループ傘下に入ることが確定的となりました。コロワイドは大戸屋の各店調理体制を改め、セントラルキッチンを導入して効率化を進めるとしています。同時に役員の刷新も進めます。窪田健一社長などを解任して、コロワイド会長の長男・蔵人賢樹氏を代表にする計画です。また、お家騒動の発端となった創業家の三森智仁氏を役員候補とする案を提出しています。
コロワイドが大戸屋を買収した狙いは明白。日常食業態への進出です。コロワイドは居酒屋の甘太郎、焼肉の牛角、回転ずしのかっぱ寿司、ステーキレストランのステーキ宮など、週末や祝祭日などに利用する非日常食が中心でした。焼肉の需要は回復傾向にあるものの、非日常食業態はまだまだ伸び悩みが鮮明です。
日本フードサービス協会の調査によると、和食、洋食などを含めたファーストフードは2020年8月で売上が96.6%まで回復しました。しかし、居酒屋は42.3%、ファミリーレストランは77.4%となっています。日常食業態の飲食店が圧倒的に強い状態が続いています。
〇業態別売上高(前年同月比)
業態 | 6月 | 7月 | 8月 |
ファーストフード | 88.2% | 96.4% | 96.6% |
ファミリーレストラン | 73.5% | 77.4% | 75.1% |
ディナーレストラン | 57.0% | 65.5% | 65.1% |
居酒屋 | 39.9% | 47.2% | 41.0% |
飲食業界の取り巻く環境の変化を見越して、別業態、別事業を取り込む動きが活発になってきました。トリドールホールディングス<3397>が、5月に実店舗を持たずにUberEatsなどでデリバリーサービスを提供するゴーストレストラン「Ghost Kitchens」に出資をしたのも、そうした動きの一環と言えます。
2020年4月以降の外食企業の主なM&Aを見てみます。
〇最近行われた外食企業の主なM&A(2020年4月~)
M&Aの内容 | 売り手 | 買い手 | 実行日 |
グルメ杵屋がラーメン店運営の雪村をグループ会社化 | 高野勉氏(雪村代表) | グルメ杵屋 | 4月20日 |
トリドールホールディングスが「Ghost Kitchens」に出資 | - | トリドールホールディングス | 5月25日 |
貝印が発酵惣菜の「Kouji & ko」のフードアンドパートナーズの全株式を取得 | 高島屋 | 貝印 | 5月29日 |
東京一番フーズが「寿し常」の事業を取得 | 豊田 | 東京一番フーズ | 6月1日 |
「業務スーパー」の神戸物産が外食子会社クックイノベンチャーを売却 | 神戸物産 | クックイノベンチャー、杉本英雄氏(クックイノベンチャー創業者) | 6月30日 |
麦茶販売の石垣食品がエムアンドオペレーションを売却 | 石垣食品 | 櫻井寛氏(エムアンドオペレーション創業者) | 7月31日 |
アミュゼホールディングスが「BBQ PARADISE M2」を事業譲渡 | アミュゼホールディングス | ブランシェ・エムズ | 8月1日 |
ペッパーフードサービスがペッパーランチ事業を売却 | ペッパーフードサービス | J-STAR | 8月31日 |
カンカクがコーヒー豆のオンラインショップ運営のCotteaを事業買収 | 余裕 | カンカク | 9月7日 |
コロワイドの大戸屋ホールディングスに対するTOBが成立 | - | コロワイド | 9月9日 |
洋菓子店「HIROTA」の21LADYがトリアノン洋菓子店を買収 | 安西健太郎氏(トリアノン代表) | 21LADY | 9月30日 |
ダスキンがデリバリーピザ「ナポリの窯」を事業譲受 | いちごホールディングス | ダスキン | 11月1日 |
※各社発表をもとに筆者作成
ゴーストレストランはデリバリー中心で、出店コストがかかりません。その一方で、認知を獲得するWeb上でのマーケティングの難易度が極めて高い業態です。トリドールはそうしたノウハウの獲得に動いたものと予想できます。