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投資ファンドによるM&A(上)日本市場でも存在感を示すプレイヤーたち
投資ファンドの本分は「企業を安く買って高く売ること」だ。そのため、投資ファンドはM&A市場において、ときには「買い手」として、ときには「売り手」として登場頻度の多いプレイヤーでもある。活発な動きを見せる投資ファンドによるM&Aに注目したい。
「エンデバー・ユナイテッド」(東京都千代田区)は日本の独立系投資ファンドです。2002年に誕生したフェニックス・キャピタルが前身で、国内の投資ファンド最古参の一つに数えられます。2018年9月に351億円の8号ファンドを組成し、3000億円以上の資産を運用しています。
2020年3月には事業再生ADRを申請した児玉化学工業<4222>とスポンサー契約を締結。第三者割当増資を引き受けて再生支援へと乗り出しました。50社以上の企業に投資をしていますが、中でも2017年6月に実施した日本ピザハット・コーポレーション(横浜市)の買収が最近ではよく知られています。
エンデバー・ユナイテッドとはどのような投資ファンドなのでしょうか?
この記事では以下の情報が得られます。
・エンデバー・ユナイテッドの概要
・投資先一覧
・三菱自動車再生の詳細
・ピザハット買収の詳細
フェニックス・キャピタルは、現在のニュー・ホライズン・キャピタル(東京都港区)会長・安東泰志氏が設立しました。2002年といえば、金融機関が不良債権処理に追われていた時代です。フェニックスの名の通り、事業再生としての性格が強いファンドでした。
フェニックスは主に金融機関から債権をディスカウント価格で買い取り、それを株式化して事業再生を行っていました。安東氏は1981年に三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、1988年にロンドン支店の企業ファイナンスヘッドに就任。1990年代は英国や欧州の企業再生案件に関わっていました。経営立て直しの経験が豊富で、三菱銀行出身だった安藤氏は2004年、三菱グループが大規模な支援に乗り出そうとしていた三菱自動車<7211>の再生案件を手掛けることとなります。
三菱自動車は2000年に大規模なリコール隠しが発覚。河添克彦社長が退任に追い込まれる大騒動に見舞われていました。社会的な信用と評判が落ちる中、フェニックスは同社の事業再生を担ったのです。
ところが、プロジェクト着手直後の2004年6月にトラック・バス部門で更なるリコール隠しが発覚。元経営幹部に逮捕者が出るなど、大揺れに揺れました。追い打ちをかけるように筆頭株主だった独ダイムラー・クライスラーが財政支援の打ち切りを発表。倒産危機へと追い込まれます。
フェニックス・キャピタルは約740億円を出資して三菱自動車の株式33%超を取得。筆頭株主となり、事業再生委員会を組成しました。安東氏は取締役事業再生委員長として本格的な立て直しに取り掛かります。
フェニックスは国内外の社員や部品会社、販売会社などに長時間のインタビューを実施。その他、関係者1万4100人にも上るアンケート調査を行い、リコール隠しの問題点を洗い出したといいます。
委員会は2年後から収益の黒字化を目指す再生計画を立案。三菱重工業<7011>が出資比率を15%まで高めて持ち分法適用関連会社としました。フェニックスは株式を売却して、立て直しの第一歩が終わりました。2年後、三菱自動車は実際に営業黒字化を実現しています。
エンデバー・ユナイテッドは、三菱自動車の一件で知名度の高まったフェニックス・キャピタルから分離・独立する形で2013年に誕生したファンドです。代表取締役は三村智彦氏。三村氏は安東氏と同じく三菱銀行の出身。大企業向け融資業務、投資銀行業務を経験した後、フェニックス・キャピタルの取締役に就任していました。
ファンドの投資先は多岐にわたります。
【製造業】
企業名 | サービス内容 | 投資時期 | EXIT時期 |
---|---|---|---|
NES | 各種産業機械の設計・生産・据付 | 2019年3月 | - |
NPW横浜 | トラック用シート製造 | 2018年7月 | - |
クレファクト | 自動車用排気系・燃料系・部品製造 | 2018年7月 | - |
日本カタン | 送電線用架線金具製造 | 2017年7月 | - |
甲斐食産 | 鶏肉処理加工 | 2017年4月 | - |
松原テクノ | 建機用カウンターウエイト製造 | 2015年2月 | 2018年2月 |
富士テクニカ宮津 | 自動車用プレス金型製造 | 2013年5月 | 2016年2月 |
日本ストロー | 伸縮ストロー製造 | 2007年11月 | 2014年2月 |
フジソク | スイッチ製造 | 2005年3月 | 2006年11月 |
ティアック | 音響・情報関連機器製造 | 2005年3月 | 2013年5月 |
カイジョー | 半導体・液晶製造装置製造 | 2005年2月 | 2012年1月 |
ソキア | 測量機器製造 | 2004年12月 | 2008年2月 |
三菱自動車工業 | 自動車製造 | 2004年7月 | 2005年12月 |
明道メタル | 金属加工 | 2004年3月 | 2008年1月 |
ゴールドパック | 飲料製造 | 2003年3月 | 2011年1月 |
滝澤鉄工所 | 工作機械製造 | 2003年3月 | 2005年6月 |
ツムラ | 医薬品製造・販売 | 2002年10月 | 2004年12月 |
【卸売業】
企業名 | サービス内容 | 投資時期 | EXIT時期 |
---|---|---|---|
サンライズ | 食品包装資材卸 | 2020年1月 | - |
アルテック | 産業機械商社・PETボトル用・プリフォーム製造 | 2007年3月 | 2013年7月 |
市田 | 呉服卸 | 2002年3月 | 2008年2月 |
【飲食・小売】
企業名 | サービス内容 | 投資時期 | EXIT時期 |
---|---|---|---|
ポケットフーズ | デリバリー・テイクアウトピザチェーン経営 | 2019年11月 | - |
ジャヴァホールディングス | アパレル製造・小売 | 2018年3月 | - |
日本ピザハット | デリバリー・テイクアウトピザチェーン経営 | 2017年6月 | - |
パレモ・ホールディングス | アパレル小売 | 2016年10月 | - |
花菱縫製 | オーダースーツ・オーダーシャツ製造・販売 | 2013年7月 | 2015年10月 |
中三 | 百貨店 | 2012年6月 | 2016年10月 |
パレ | スーパーマーケット | 2005年6月 | 2008年6月 |
近商ストア | スーパーマーケット | 2004年1月 | 2007年8月 |
津松菱 | 百貨店 | 2003年12月 | 2010年12月 |
【広告・印刷業】
企業名 | サービス内容 | 投資時期 | EXIT時期 |
---|---|---|---|
マルキンアド | WEB・グラフィック・イベントの企画デザイン | 2018年12月 | - |
ENJIN | 広告・IMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)の企画・提供 | 2018年1月 | - |
JOETSU | 販促企画、各種コンテンツ制作、印刷 | 2017年10月 | - |
ジェイトップ | フリーペーパー流通 | 2015年9月 | 2019年11月 |
【土木・建築業】
企業名 | サービス内容 | 投資時期 | EXIT時期 |
---|---|---|---|
豊栄建設 | 住宅の設計・施工・販売 | 2020年3月 | - |
中條工務店 | 型枠工事 | 2019年7月 | - |
ロゴスホーム | 住宅の設計・施工・販売 | 2019年6月 | - |
今田建設 | 地下鉄関連工事 | 2018年12月 | - |
旭シンクロテック | 管工事 | 2013年7月 | 2016年2月 |
佐藤建設工業 | 送電線建設工事 | 2013年1月 | 2016年10月 |
オリエンタル白石 | PC橋梁の施工・土木工事 | 2010年8月 | 2011年12月 |
日特建設 | 総合建設 | 2008年1月 | 2012年8月 |
OSJBホールディングス | 鋼構造物の製作・施工 | 2006年12月 | 2014年10月 |
基礎地盤コンサルタンツ | 地質調査・コンサルティング | 2006年4月 | 2011年7月 |
世紀東急工業 | 道路舗装・土木工事 | 2005年9月 | 2012年11月 |
不動建設 | 土木・地盤改良工事 | 2004年3月 | 2006年3月 |
建研 | PC構造物の設計・施工 | 2004年3月 | 2006年10月 |
東急建設 | 総合建設 | 2003年8月 | 2012年12月 |
【その他】
企業名 | サービス内容 | 投資時期 | EXIT時期 |
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クリアライズ (旧:日立パワーソリューションズ 受託分析サービス事業) | 受託分析サービス | 2020年3月 | - |
トータルメンテナンスジャパン | 総合ビルメンテナンス業 (ゴルフ場、ホテル、商業施設) | 2019年6月 | - |
奥ジャパン | 訪日外国人向け旅行ツアー企画・運営 | 2019年4月 | - |
※ホームページを基に筆者作成
投資ファンドの本分は「企業を安く買って高く売ること」だ。そのため、投資ファンドはM&A市場において、ときには「買い手」として、ときには「売り手」として登場頻度の多いプレイヤーでもある。活発な動きを見せる投資ファンドによるM&Aに注目したい。