個人向けスキャナーで業界をリードした富士通<6702>が、同事業から撤退する。4月28日に、同社がスキャナー事業を手がける完全子会社PFU(石川県かほく市)株式の8割を840億円でリコー<7752>に譲渡すると発表したのだ。富士通はハードウエアからソフトウエアへのシフトを進めており、家庭用スキャナーを非中核事業として手放すことにしたという。
富士通が子会社のスキャナー事業から撤退する理由は、成長が見込めないから。しかし、ペーパーレス化が進み、市場拡大が期待できそうなものだ。なぜ、ここで同事業から撤退する決断をしたのか?そこにはデバイスの進化、ビジネスモデルの転換、そして本来なら「追い風」になるはずのペーパーレス化という要因があった。
富士通撤退のカギとなるのが、同社が手がけていたのが「個人向け」スキャナーだったということだ。連絡文書や領収書、手紙といった家庭の書類をPDFやJPEGなどの画像データとして取り込み、保管するのが主な用途だ。個人以外にも、中小企業のオフィスや大手の窓口業務で法人利用されている。
特に人気があったのは、書籍の背表紙を裁断して1ページずつ自動で読み込み電子化する、いわゆる「自炊」(出版社ではなく、ユーザー自らが電子書籍化すること)での利用だ。読み取り速度が早く、紙の重送や斜行などの読み取りトラブルが少ない富士通ブランドのスキャナーは、「自炊」マニアの間で高い評価を受けた。
しかし、デバイスの進化で風向きが変わる。スマートフォンのカメラアプリで「ドキュメントモード」が追加され、読み取った画像の歪みを修正したり、画像をテキスト変換したりして、簡易スキャナーとして使えるようになった。大量枚数なら厄介だが、数枚程度であればスキャナーをセットして読み取りアプリを起動するよりも手早く読み込める。一般の家庭ではスキャナーをわざわざ購入する必要はなくなった。