発生当事者別でみると、開示当事者の「会社」が27社(構成比47.4%)、27件(同46.6%)で最も多かった。内容では、開示当事者が会計処理手続きの誤りや事業部門で売上の前倒し計上、売上原価の先送りをしたケースなどがあった。
「子会社・関係会社」は、24社(構成比42.1%)、25件(同43.1%)。「会社」と「子会社・関係会社」を合わせると51社(52件)で、社数全体の89.5%、件数では89.7%を占めた。
市場別では、「東証1部」が27社(構成比47.4%)、28件(同48.3%)で最も多かった。2013年までは新興市場のジャスダック、マザーズが目立ったが、2015年から国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が際立っている。
業種別では、「製造業」の15社(構成比26.3%)、16件(同27.6%)が最も多かった。次いで、「運輸・情報通信業」の10社(同17.5%)、10件(同17.2%)。
製造業は、国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多い。運輸・情報通信業では、ソフトウェア関連企業で不明瞭な外部取引により費用が過大に計上されたケースなどがあった。
2016年の不適切会計は、社数、件数とも最多を記録した。2015年5月に発覚した東芝の不適切会計を契機に、監査の信頼性確保が強く求められたことも背景にある。
監査の厳格化は、不適切会計が発生するたびに図られてきた。2011年11月、オリンパスの損失飛ばし不正が発覚し、2013年3月に不正に対する監査手続きが強化された。「監査における不正リスク対応基準」が設けられ、2014年3月期決算から不正リスクに対応した監査が実施されると、不適切会計の開示件数は増加をたどった。だが、これまで監査基準の強化と不適切会計はいたちごっこの関係が続き、今後も大きな不適切会計が発覚すると監査基準が強化され、開示件数が増加する可能性がある。
この悪循環を断ち切るには経営陣のコンプライアンス意識の浸透と責任感、そして現場と経営側とのコミュニケーション強化が欠かせない。2016年10月に不適切会計が発覚した日鍛バルブ(株)(神奈川県、東証2部)は、工場で約2億円の在庫の架空計上や不正振り替えが行われていた。月次計画の大幅な未達を工場外の上長に報告、相談できず、生産計画を達成したように見せかけていた。工場の人員不足で品質問題が発生し、その対応に追われて一部製造できなかったことが主な要因だが、日常的な現場と管理部門の風通しの悪さが根底にある。
経済のグローバル化で事業規模が拡大し、海外子会社を通じた取引での不適切会計も増えている。社内のコーポレートガバナンスやコンプライアンス意識向上とともに、風通しの良いコミュニケーション環境が整わない限り、不適切会計は繰り返される可能性がある。