2017年3月期、ソフトバンクグループ<9984>の連結純利益は1兆円を超えた。好業績の理由を問われれば、英国アーム社(ARM)の巨額買収など先見性と実行力に裏打ちされた投資戦略という一言に尽きるかもしれない。このように快進撃を続けるソフトバンクが、どのような事業に投資を行い、どのように資金を回収しているのか、今回は特にキャッシュの動きに着目して2017年3月期決算を捉え直してみたい。

キャッシュ・フローで見るソフトバンクの2017年3月期決算

「勘定合って銭足らず」の言葉のごとく、会計上の損益計算や利益計算と呼ばれるものと実際の資金の動きは一致しない。損益は見積り方法や事象の捉え方次第で計算結果に差が出てくるものだからだ。これに対して、現金や預金などキャッシュの残高は動かしようのない事実である。事業経営は究極的にはキャッシュを獲得することを目的とし、損益計算も短期的にはキャッシュと異なる動きをしながら最終的にはキャッシュに集約されるといえる。

過去5年のキャッシュ・フローは?

ここで、ソフトバンクの過去5年のキャッシュ・フローを確認してみることにしよう。キャッシュ・フローは通常、「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャッシュ・フロー」、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つに大別される。「営業活動によるキャッシュ・フロー」は主として本業による資金の出入り、「投資活動によるキャッシュ・フロー」はM&Aや設備投資に伴う資金の出入り、「財務活動によるキャッシュ・フロー」は借入や返済、増資などによる資金の出入りを意味する。

図表1 ソフトバンク キャッシュ・フローの推移

ソフトバンク 過去5年のキャッシュ・フローの推移
M&A Online編集部作成

グラフの推移を見ると、ソフトバンクの「営業活動によるキャッシュ・フロー」は安定して黒字となっており、2017年3月期には1.5兆円もの営業キャッシュを獲得していることがわかる。これに対して「投資活動によるキャッシュ・フロー」は常にマイナスとなっている。これはM&Aなどの投資をかなり積極的に行っていることの証左であり、投資の成果が出ている限りにおいては、ネガティブな意味のマイナスではない。「財務活動によるキャッシュ・フロー」はちょうど「投資活動によるキャッシュ・フロー」の動きと対照的な形になっており、投資資金を借入金などにより調達していることが読み取れる。

図表2 ソフトバンク キャッシュ・フローの内訳

2013年3月期2014年3月期2015年3月期2016年3月期2017年3月期
営業活動によるキャッシュ・フロー(億円) 8,130 8,602 11,551 9,401 15,007
投資活動によるキャッシュ・フロー(億円) -8,741 -27,181 -16,672 -16,516 -42,135
財務活動によるキャッシュ・フロー(億円) 4,714 23,593 17,199 432 23,807
現金及び現金同等物の期末残高 14,390 19,634 32,586 25,696 21,831

ソフトバンク有価証券報告書より

これら3つのキャッシュ・フローの結果として「現金及び現金同等物の期末残高」すなわちキャッシュ残高が手元に残ることになる。たとえば、2016年3月期末のキャッシュ残高は2.5兆円であったが、2017年3月期の1年間で「営業活動によるキャッシュ・フロー」がプラスの1.5兆円、「投資活動によるキャッシュ・フロー」がマイナスの4.2兆円、「財務活動によるキャッシュ・フロー」がプラスの2.3兆円という動きがあり、2017年3月末にはキャッシュ残高が2.1兆円(=2.5兆円+1.5兆円-4.2兆円+2.3兆円)となっている。

買収した「スプリント事業」と「アーム事業」

一般に、グループ企業がどのような事業に投資を行い、どのような成果を上げているのかを確認するためには、企業の公表するセグメント情報が役立つ。ソフトバンクの事業は「国内通信事業」、「スプリント事業」、「ヤフー事業」、「流通事業」、「アーム事業」の5つから構成される。最後の「アーム事業」は、2016年9月5日に英国アーム社を買収したことに伴い新設されたセグメントだ。半導体設計大手である同社の買収価額3.2兆円は、先ほどの2017年3月期「投資活動によるキャッシュ・フロー」マイナス4.2兆円のうち大きな割合を占める。

「国内通信事業」には移動通信、ブロードバンド、固定電話などを手掛けるソフトバンク株式会社、「スプリント事業」には米国での通信事業を担うスプリント、「ヤフー事業」にはインターネット広告やeコマース事業を行うヤフーやアスクル、「流通事業」には米国での携帯端末の販路を持つブライトスター、国内でのPC周辺機器などの流通を担当するソフトバンクコマース&サービスが含まれる。

図表3:セグメント事業領域

セグメント名称主な会社
国内通信事業 ソフトバンク、Wireless City Planning
スプリント事業 Sprint Corporation
ヤフー事業 ヤフー、アスクル
流通事業 Brightstar Corp.、ソフトバンクコマース&サービス
アーム事業 ARM Holdings plc
その他(球団関連事業) 福岡ソフトバンクホークス

ソフトバンク有価証券報告書より一部抜粋

事業別の資金の動きを見てみる

法人所得税が5,428億円減少、源泉所得税の還付は2,934億円

ソフトバンクの事業セグメントが明らかになったところで、改めて2017年3月期の資金の動きを見てみよう。まず、「営業活動によるキャッシュ・フロー」がプラスの1.5兆円となった要因としては、光回線と携帯電話のセット販売など「国内通信事業」の好調も大きいが、法人所得税(海外分を含めた法人税などの支払)が5,428億円減少したことやグループ会社間の配当にかかる源泉所得税の還付が2,934億円あったことなども寄与している。

アームの買収価額は3兆2,541億円

次に「投資活動によるキャッシュ・フロー」の構成を確認したい。「投資活動によるキャッシュ・フロー」がマイナスの4.2兆円となった要因としては、やはり先述したアームの買収価額3兆2,541億円が大きいほか、スプリントやソフトバンク株式会社で通信設備やリース端末など総額9,235億円規模の設備投資をしていることが影響している。一方で、2016年6月に子会社であったスマホ向けゲーム大手スーパーセル(フィンランド)の全株式を中国IT大手テンセントに売却したことで7,235億円の純増となっている。

「純増」という表現を使ったのは、売却により資金が手に入る反面、スーパーセルが保有していた現金預金などの資金はグループのものではなくなるためキャッシュ・フロー計算上では正味の金額を算出するためである。そのほか、アリババやガンホーの株式売却による4,821億円の収入、既存投資先への追加投資や有価証券投資による支出など、すべての投資活動の収入と支出を合計した結果がマイナス4.2兆円ということになる。

アームの買収資金の調達は

最後の「財務活動によるキャッシュ・フロー」では、上記の投資活動における旺盛な資金需要に対応する手法が見てとれる。「財務活動によるキャッシュ・フロー」がプラスの2.3兆円となった要因としては、アーム買収資金の調達としてソフトバンクで1兆円の借入、スプリントが設備投資資金などで40億ドル(4,000億円超)の借入を行ったことなどが挙げられる。また、ソフトバンクでは普通社債やハイブリッド債(株式と社債の中間的性格を持つ債券)の発行により1兆円、子会社のソフトバンク株式会社でもセールアンドリースバック(設備などを売却してリースし直す手法)により4,923億円を調達するなど、巧みに調達方法を使い分けながら資金を確保していることがうかがえる。また、アリババ株の売却時においては株式先渡契約(デリバティブの一種)を締結することにより5,784億円の売却代金を早期に受領し、資金的余裕を生み出す工夫がなされていることにも注目したい。

まとめに代えて

これら一連のキャッシュマネジメントによって、安定的に2兆円を超える手元資金を確保しながら、大型投資に備える体制が確立されている。それに加えて、2017年5月の初回クロージングで10兆円超の出資コミットメントを手に入れた「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」が発足するというのだから驚くほかない。

今後、ソフトバンク本体で借入金を増やすことなく、我が国の公共事業予算(6兆円)を大幅に上回る額の投資ができることを意味する。しかも、ソフトバンクが採用するIFRS国際財務報告基準)において、このファンドや投資対象会社は連結の範囲に含められる可能性が高い。つまり、これらの投資の成果は将来のソフトバンクの連結決算数値をさらに押し上げる要因となる可能性が高いということだ。

文:M&A Online編集部

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