楽天<4755>の携帯電話市場への参入では、基地局の設置工事などに伴い、資金調達残高が2019年のサービス開始時には約2000億円、2025年には最大で6000億円規模を想定しているという。まず、その金額の意味をあらためて考えてみたい。

決意と意気込みの強さの一方で感じる、楽天の危うさ

 もとより単純比較できるものではないことを承知で、6000億円という額をM&Aで事業領域や規模の拡大を図ってきた楽天の過去の買収金額と比較してみよう。

〇楽天が実施した主なM&A高額案件

年月エリア買収の概要買収金額
2003年9月 日本 マイトリップ・ネット(後の楽天トラベル)の全株式を日立造船より買収 323億円
2003年11月 日本 DLJディレクトSFG証券(現 楽天証券)を買収 約300億円
2005年10月 米国 アフィリエイトの「Link Share」を子会社化  464億円
2012年1月  カナダ カナダの電子書籍「Kobo」を3億USドルで買収 236億円
2014年10月 北米 北米最大級の会員制オンライン・キャッシュバック・サイト「Ebates」を買収 1060億円
2015年4月  米国 図書館向け電子書籍配信サービスの「OverDrive」を買収 500億円

 一言でいうと、楽天のこれまでの買収金額は大きいといっても、数百億円規模であり、その5倍、10倍の金額を主に設備投資の資金調達額として想定し、携帯キャリアへの新規参入を宣言したということだ。そこにチャレンジャーとしての並々ならぬ決意と意気込みの大きさをうかがうことができるだろう。

 一方、他の先輩格の通信キャリアの設備投資額との比較である。たとえば、業界最大手であるNTTドコモ<9437>の設備投資額は、次のように推移している(同社決算資料による)。

 少しずつ減少してきてはいるが、単純にいうと、楽天が2025年に想定している最大規模の資金調達残高と同程度の額をNTTドコモは設備投資として毎年かけてきたということができるだろう。

 たしかに、単純な数字としては、6000億円の資金調達規模は大きい。しかし、誤解を恐れずにいうと、NTTドコモにいわせれば、「ウチは毎年そのくらいのお金をフツーにかけてきましたが……何か?」と、我関せずとするような、このビジネスを手がける企業にとって必要不可欠な額なのかもしれない。

 楽天が通信キャリアとして成功するかどうかの不確実さを指摘する声がある。たしかに参入の直後の株価は大きな下落を見せた。その背景は、このようなところにあるのかもしれない。

5Gへのカウントダウンが始まった!

 楽天の新規参入に関して、NTTドコモは比較的、静観しているかのようにも思える。その姿は、どんな事態が発生しても“想定内”とし、自分が定めたターゲットに対する軸をぶらさないトップアスリートのようでもある。

 では、NTTドコモが定めたターゲットは何だろうか。答えは2020年に実用開始となる5Gだろう。

 5G、すなわち第5世代移動通信システムは、携帯キャリアが各社の特徴を打ち出しつつも、こぞって取り組む次世代の移動通信システムだ。NTTドコモは、他の通信キャリア各社に先駆けて、その研究開発を進めてきた。

 技術的な面はさておき、この5Gによって私たちの日常生活、日常の“ケータイ・ライフ”はどう変わるのだろうか。「4K/8Kといった超高解像度動画のストリーミングを快適に楽しめるような世界をめざす」とするNTTドコモは、自社のホームページで「飛躍的な性能アップ」「5G技術コンセプト」「5Gで有望な無線伝送技術」という3つの観点から5Gが描く近未来像を紹介している。

ドコモが描く5Gの近未来像とは?

 移動通信システムの歴史を簡潔に振り返ってみると、次のようになるだろう。

第1世代移動通信システム アナログ回線の1G時代 ショルダーホンなど通話機能のみ 1985年-
第2世代移動通信システム デジタルの2G時代 ポケベルやPHSなどデータ通信が可能 1993年
第3世代移動通信システム インターネットの3G時代 携帯電話、スマートフォンなど 1999年
第4世代移動通信システム 動画の4G時代 スマートフォン、モバイルネットワークなど 2012年
第5世代移動通信システム 光より高速な5G時代 IoT、ウェアラブル端末など
2020年頃開始予定

 3G世代のLTE(Long Term Evolution)は「3.9Gと呼ばれていた」といった議論はあるが、誤解を恐れずに1〜5Gの時代を一言で示すと上記のようになる。通信の高速化・大容量化に対応するため、通信規格が整備されてきた。

 では、5Gで何が変わるのか。最大の変化はIoT(モノのインターネット)化だろう。身の周りのありとあらゆるモノがインターネットでつながり、そのトラフィック(通信回線を利用するデータ量)が可能となるように通信規格が整備されるということだ。

 IoT化されれば、各種の家電はもちろんのこと、ウェアラブルデバイス(腕や頭部などの身体に装着して利用することが想定された端末)、自動運転のクルマ、ビジネス・プライベートユースのドローン、遠隔医療・介護、各種のセンサーなど、文字どおりあらゆるものでインターネットが活用されることになる。その近未来の姿を実現すべく携帯キャリア各社が研究開発を進めているのが、5G通信網ということになる。また、NTTドコモがめざすような映像の8K化、さらに立体化なども、当然のように実現していくだろう。

 たしかに、5Gの技術とその普及は“通信”の話である。しかし、その通信の可視化した姿(端末)は、もはや携帯電話、ケータイ、スマホといったものではなく、まだ見ぬ何か、なのかもしれない。

 寡占ともいわれ続けた携帯キャリア業界、3大キャリアはもちろん新規参入の楽天も、さらには格安スマホ業界も、2020年以降、その近未来像のなかでしのぎを削ることになる。

文:M&A Online編集部