公開日付:2017.10.16
10月13日、次々とデータ改ざんの発覚で揺れる(株)神戸製鋼所(TSR企業コード:660018152、兵庫県、東証1部)の川崎博也代表取締役会長兼社長が、都内で会見した。
会見では、データ改ざんの製品の出荷先数が約500社に上ることも明らかにした。また、取引先からリコール費用の負担を求められた場合、「各ユーザーが負担したコスト等は(支払う)腹づもりだ」と述べた。
会見には川崎会長兼社長のほか、勝川四志彦常務執行役員、内山修造ものづくり推進部部長が出席。200名を超す報道陣が集まり、神戸製鋼所が事前に用意した資料不足で会見時間が遅れるハプニングで幕開けした。
神戸製鋼所は10月8日、検査の未実施やデータ改ざんの製品の納入先は約200社と公表。だが、11日には鉄粉事業や子会社でもデータ改ざんがあり70社増えた。さらに13日の会見では、その後の調査で約500社に膨らんだことを明らかにした。
同時に、データ改ざんに関わった製造会社名や出荷重量も公表(表参照)した。出荷した製品は最終的に国内外の自動車メーカーや鉄道、航空機などで使用されている。メーカー名公表の意図を問われた川崎社長は、出荷先や最終納入先の名前名は「複雑なサプライチェーンの中で加工され、どういった中で消費者の手に渡っているかわからない。取引上の守秘義務もあり公表できない」と語るにとどめた。
神戸製鋼所だけでなく、国内外の関連会社でも不正が広く行われていた。川崎社長は「鉄鋼やアルミ・銅事業はBtoB、つまり半製品の供給ビジネスだ。機械系事業はBtoCで、供給先が完成品メーカーだ。今回の不正はBtoBの事業領域に集中している」と述べ、不正が行われた事業部門は限定されるとの認識を示した。
ただ、2006年以降に3件のデータ偽装(コンプライアンス違反)が発生していた点を踏まえ、「(企業)風土的なものを感じるかもしれない」と語り、今後の原因分析に繋げる意向を示した。
会見で記者から「信頼が失墜し、今後の費用負担を考えると神戸製鋼として存続できるのか」と突っ込む質問も飛んだ。川崎会長兼社長は時折、不機嫌そうな表情をみせ「現状の認識から言うと、品質不正案件は年間売上高の4%だ。残りの96%の品質整合性は取れている。(不正が明らかになった)アルミ・銅事業部門についてはダブルチェックをする」と、信頼回復に努める意欲を示した。
2017年3月期の連結決算で、アルミ・銅部門のセグメント利益は120億円をあげていた。全社では鉄鋼、建設機械部門の大幅赤字で利益(調整前)が126億円の赤字に沈んだ。
電力と並ぶ利益の稼ぎ頭で発覚した不正の影響は計り知れない。さらに、売上規模の大きい鉄鋼部門でも不正が発覚した。売上と利益をけん引する両部門で相次いだ発覚の影響は、川崎会長兼社長が認識する「4%」どころではない。
取引先の商社の担当者は「単独での生き残りは難しいのではないか。業界再編につながる可能性がある」と指摘する。また、別の関係先は「鉄鋼・アルミ業界は寡占が進み、独占禁止法の観点から救済合併は容易でない」と語り、業界の先行きを探る動きも見え隠れする。
神戸製鋼所の2018年3月期第1四半期(連結)の自己資本比率は29.8%、キャッシュ残高は2,030億円ある。短期的な決済への不安材料は少ない。データが改ざんされた製品が納入されたメーカーは、神戸製鋼所と安全性の検証を進めている。今後、仮にリコール費用や損害賠償の負担が生じた場合、大きな時間とコスト負担が避けられないだろう。
すでに信頼低下に伴う取引先からの発注減や、金融機関の融資態度の変化を懸念する声が日ごと高まっている。神戸製鋼所は資金調達先や調達額を明らかにしていない。東京商工リサーチ(TSR)の調査や開示資料では、みずほ銀行や三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、日本政策投資銀行、日本生命などの金融機関が確認できる。
10月16日、神戸製鋼所の担当者はTSRの取材に対し、「資金繰りへの影響は精査中で、現時点で見えてきているものはない」とコメントした。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2017年10月17日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)
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