神戸製鋼所<5406>の経営が揺れに揺れている。アルミ・銅製品や鉄鋼製品の品質データ改ざん問題が表面化して1カ月となるが、事態収拾の道筋は一向に見えない。新規商談は事実上ストップし、国内外500社を超えるデータ改ざん製品の納入先からは今後、損害賠償請求が予想される。八方ふさがりの状況をどう打破するのか。事業の切り売りを迫られるのか。事と次第によっては鉄鋼業界の再々編につながる可能性もある。

「信用を失うのは一瞬。取り戻すのは一生」。同業大手の関係者は金言をかみしめるように語る。不祥事はアルミ・銅製品にとどまらず、本丸の鉄鋼製品にも波及し、組織ぐるみの様相を呈する。子会社のコベルコマテリアル銅管の秦野工場(神奈川県秦野市)で日本工業規格(JIS)認証を取り消されたが、昨年は別のグループ会社でも同様の処分を受けており、2年続きの法令違反は信用失墜に追い討ちをかけた。

当期損益見通しは見送り

 10月末には鉄鋼大手の4~9月期決算が出そろった。しかし、神鋼は通期(2018年3月期)の当期損益見通しの発表を見送らざるを得なかった。 

 神鋼の7日の発表によると、データ改ざん製品の納入先525社のうち、9割超にあたる470社で安全性に問題のないことを確認済み。この前日(6日)にはトヨタ自動車<7203>が車両の品質・性能への影響についての検証結果を公表した。すでに公表済みのアルミ板に加え、国内で仕入れたクラッド材、鉄粉、ターゲット材、銅管、鋼線などで自社基準を満たしていることを確認。トヨタは引き続き、銅製品や海外購入分の影響を調べるが、使用点数の多さや仕入れ経路の複雑さから、調査にはなお時間を要するようだ。 

損害賠償請求の動きも

 問題製品の納入先は自動車、航空機、防衛関連をはじめ広範にわたる。今後、神鋼が直面するとみられるのが損害賠償請求の動きだ。顧客側で安全性の再確認に要した費用などを補償する必要が生じる。川崎重工業<7012>の金花芳則社長は「我々にかかった費用は当然請求したい」との姿勢を示す。 

 ラフな計算だが、仮に1社で平均1億円とすると補償額は500億円、同じく2億円なら1000億円の巨費にのぼる。これに対し、手元の現預金などは9月末段階で2000億円強。 

 米司法当局は神鋼に関係書類の提出を求めており、この行方も気がかりだ。 

新日鉄住金がかぎ握る?

 鉄鋼業界は1970年、八幡製鉄と富士製鉄の合併で新日本製鉄が誕生以来、約30年にわたり大手5社体制が続いた。 

 2002年、NKKと川崎製鉄が統合してJFEホールディングス<5411>が発足、さらにこの年、新日鉄、住友金属工業、神鋼の3社が株式相互持ち合いに動いた。アルセロール・ミタル(ルクセンブルク)に代表される欧米勢のM&Aによる規模拡大や、中国勢の台頭が業界再編に向けて日本勢の背中を押した。 

 2012月10月には新日鉄住金<5401>が誕生。これに伴い、神鋼は3社連合を離脱し、「素材」「機械」「電力」を3本柱とする複合経営にアクセルを踏み込んだ。そこに襲ったのが今回の一連の不祥事だ。 

 神鋼が主力事業を切り売りすれば、複合経営の解体にかじを切ることを意味する。再編となれば、新日鉄住金がかぎを握る存在。同社は神鋼株式の3%弱を持つ大株主として名を連ねる。 

 三村明夫日本商工会議所会頭(新日鉄住金相談役)は会見で、鉄鋼再編の可能性について「問題の大きさがつかめていない段階。(そういう議論は)今は時期尚早だ」と述べている。 

再び、復活ののろしは上がるか

 折しも10月31日、神鋼神戸製鉄所(神戸市)の高炉の火が消えた。加古川製鉄所(兵庫県加古川市)に粗鋼生産を移管するのに伴う既定路線とはいえ、この高炉は阪神大震災から2カ月半後に復活し、「復興のシンボル」と言われてきた。

 果たして再び、神鋼の復活ののろしは上がるのか。自力再建には創業的出直しが必要になろう。 

文:M&A Online編集部