武田薬品工業<4502>がビタミン剤のアリナミンなどの大衆薬事業を手がける子会社の武田コンシューマヘルスケア(TCHC、東京都千代田区)を、米投資ファンドのブラックストーン・グループに売却する。

同社では今回の売却の目的は、アイルランドの製薬会社シャイア-の買収(2019年1月)に伴って膨らんだ借入金の圧縮ではないとする。しかし実際には借入金圧縮効果は極めて大きく、2021年3月期の業績に与える影響は決して小さくはない。

それでもクリストフ・ウェバー社長CEO(最高経営責任者)は「TCHCの成長を加速させるために慎重に検討を重ねた結果」とし、あくまでもTCHCの将来を見据えたうえでの「苦渋の決断」だったと言い切る。

武田薬品にとってアリナミンとはどのような存在だったのか。

非中核事業への投資は困難

武田薬品は1954年に日本で初めてビタミンB1誘導体製剤としてアリナミンの販売を始めた。ビタミンB1は糖質からエネルギーを生み出す物質で、不足すると、疲れやすくなり、さらに不足すると足がしびれたりむくんだりする脚気になる。

1950年代の日本では脚気は国民病とされており、アリナミンの登場は脚気の克服に大きく貢献した。その後ドリンク剤なども投入され、当時の経営の一つの柱となったのをはじめ、誕生から70年近くたった現在でも消費者の支持を得ている。

クリストフ・ウェバー社長CEOは武田史料館(神戸市)を何度も訪問する中で、「武田の歴史においてアリナミンがいかに重要な役割を果たしてきたかということを強く実感している」という。

にもかかわらず売却に踏み切ったのは、日本の人口減少や健康食品との競合などにより大衆薬市場が激しい競争にさらされていることと、武田薬品が大衆薬を非中核事業と位置付けているためだ。

武田薬品が公表した資料によると、TCHCの業績は2年連続の減収営業減益となっており、2020年3月期は売上高608億9700万円(前年度比5.1%減)、営業利益128億1900万円(同1.0%減)だった。

武田薬品では、こうした状況を打開するためには多額の投資が必要と判断した。この判断は多額の投資をすればTCHCを成長させることができるということでもある。

ところが同社では消化器系疾患、希少疾患、血漿分画製剤、オンコロジー(がん)、ニューロサイエンス(神経精神疾患)の5つの事業を中核に据えており、非中核事業である大衆薬への多額の投資は難しい状況にある。

そこでヘルスケア業界への投資で豊富な実績を持つブラックストーンに、TCHCの経営を託すことにしたわけだ。

クリストフ・ウェバー社長CEOは「TCHCの製品ブランドのより一層の成長と同社のさらなる発展に繋がるものと確信している」と強調する。