積極的なM&Aで知られる日本ペイントホールディングス。昨年は約2900億円を投じて豪州の塗料最大手、デュラックスグループを買収した。その同社の8月21日の発表は驚きをもって受け止められた。筆頭株主のシンガポール塗料大手、ウットラムグループの傘下に入るというのだ。急転直下、「買い手」から「買われる側」に回る理由は?

事業を取り込み、経営権を差し出す

ウットラムが日本ペイントの実施する第三者割当増資を引き受け、持ち株比率を39.4%から58.7%を高めて2021年1月1日に子会社化するもので、取得金額は1兆1851億円に達する。

金額は海外企業から日本企業が買収ターゲットとなる案件として過去2番目のスケール。2018年に米投資ファンドのベインキャピタルが東芝子会社の東芝メモリ(現キオクシア)を約2兆円で買収したのに次ぐ。

ウットラムが単独で営む事業やウットラムとアジア各国で展開する合弁事業を日本ペイント側に集中させる事実上の経営統合を狙いとしているが、日本ペイントはウットラムから事業を取り込むのと引き換えに経営権を差し出す形だ。

◎海外企業から日本企業(事業を含む)が買収ターゲットになった主な案件

買収対象買い手買収額
東芝メモリ 米ベインキャピタルが主導 2兆円 2018
日興コーディアル証券 米シティグループ 9200億円 2007
カルソニックカンセイ 米コールバーグ・グラビス・ロバーツ 4700億円 2017
シャープ 台湾・鴻海精密工業 3886億円 2016
日立国際電気米コールバーグ・グラビス・ロバーツ2500億円2017
タカタの主要事業 米KSS(現ジョイソン・セイフティ・システムズ) 1700億円 2018
パイオニア 香港ベアリング・エクイティ・アジア 1020億円 2019
東芝の白物家電 中国・美的集団 537億円 2016

伏線は2013年の買収提案

実は2013年にウットラムは日本ペイントに事実上の買収を提案したことがある。日本ペイントがウットラムとの合弁事業の持ち株比率を引き上げて連結子会社にする一方、ウットラムは日本ペイントの持ち株比率を現在の約39%に高めることで収拾を図ったが、その後もウットラムは派遣する取締役を増員するなど影響力を高めてきた。

両社は今日、昨日の関係ではない。1962年にアジア販売代理店として提携し、シンガポールで合弁事業を始めたことにさかのぼる。タイやマレーシア、中国などアジア各国に合弁を通じて進出した。

60年に及ぶ二人三脚の間柄でありながら、ついに主客が入れ替わることになった。ただ、日本ペイント側にさほどの悲壮感は見られない。第三者割当増資による資本増強を通じてM&Aをさらに積極化することが可能になるというのだ。

世界の塗料業界は米PPG、米シャーウィン・ウィリアムズ、オランダのアクゾ・ノーベルが3強を形成し、これに次ぐ第2グループの筆頭に位置するのが日本ペイント。

「世界4強」時代の推進力となるか

同社は欧州、米国、中国の地場塗料メーカーを次々に買収し、グローバル化を進めてきた。2017年には同じ第2グループの米アクサルタ・コーティング・システムズに1兆円規模の買収提案をしながら、撤回に追い込まれる苦渋を味わったが、その時も次のM&Aへの意欲を隠そうとしなかった。

意外にも今回、選択したのは買収側から買収される側に回る決断だった。日本ペイントの支配権は日本からシンガポールに移ることになった。伸るか反るかの“大博打”にも見えるが、アジア発の塗料メーカーとして「世界4強時代」の扉を開く“大英断”と果たしてなるのだろうか。

文:M&A Online編集部