数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

「病巣 巨大電機産業が消滅する日」 江上剛著、朝日文庫

タイトルを見ただけで、どこの企業がモデルなのか、ピンとくるに違いない。不正会計問題、米原子力企業の買収失敗、2017年3月期決算では製造業として過去最大の1兆円近い最終赤字を計上…。その企業とは他でもない東芝だ。

物語の舞台は日本を代表する総合エレクトロニクスメーカーの芝河電機。「公家集団」とライバル企業から陰口をたたかれながらも、おっとりしてノルマ達成にがつがつしない社風が持ち味でもある。ところが、職場の空気はよそよそしく、上司が部下の成果を横取りしてしまうような風土に一変していた。

病巣

そんな変化を最も感じ取っていた一人がミャンマー赴任から4年ぶりに本社に戻った瀬川。ミャンマー時代、社命の名のもと、やむなく赤字受注した発電プロジェクトをめぐる社内ルール無視の会計処理に異議を唱えたことで、経営監査部勤務を命じられる。

経営監査部は社内で閑職とされる部署だが、そこで内部告発をきっかけに社内カンパニーの一つ、PC(パーソナルコンピューター)社で悪質な会計操作が行われていたことを知るのだ。

PC社は芝河電機に君臨する会長、南の出身母体。南は危機に陥っていたPC社を再建した辣腕ぶりが認められて社長に就任し、現在は社長の座を日野に譲っている。しかし、自ら引き上げた後任の日野には無能社長のレッテルを張り、両者の関係は険悪そのものになっている。

南がPC社時代に手を染めたが「バイセル取引」を悪用した利益の水増し。部品を製造委託先に有償支給し、完成品を買い戻すことで利益は相殺されるので、バイセル取引自体は何ら違法ではないのだが、使い方を誤れば、見せかけの業績を作り出す粉飾決算の温床になりかねない。

告発したPC社の社員は自殺してしまう。後事を託された瀬川はPC社だけでなく、全社でそうした粉飾が横行している驚愕の事実にたどりつく。証券取引等監視委員会も内偵に動き始めた。このままでは芝河電機は社会から淘汰されてしまう…。瀬川を助けて、2002年に同期入社の北村、宇田川、るり子が思いを胸についに立ち上がる。

著者の江上剛氏は第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)出身。同行が揺れに揺れた1997年の総会屋利益供与事件では広報部次長として混乱の収束に力を尽くした。江上氏は、この事件を扱った高杉良著「金融腐蝕列島」では改革の旗を振るモデルとして描かれたことでも知られる。(2020年10月発売=文庫)

文:M&A Online編集部