カラ売り屋、日本上陸|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

『カラ売り屋、日本上陸』 黒木亮 著 KADOKAWA刊

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あまり聞きなれない「カラ売り屋」の活動にスポットを当てた小説で、「病院買収王」「シロアリ屋」「商社絵画部」の3編からなる。

カラ売り屋については本文中に「企業の株をカラ売りして、その企業の問題点をレポートで発表し、株価が下がったところで買い戻して利益を上げる連中」との説明があり、さらに株をカラ売りする手順についても登場人物の会話の形で説明がある。加えて巻末には用語解説もあるため、証券や金融などの知識が少なくても読み進むことができる。

短編のためあまり込み入ったストーリー展開はないが、カラ売り屋とカラ売りを仕かけられた企業側の対抗措置などの状況はよく理解できる。

カラ売り屋、日本上陸

病院買収王では、80を超える病院を運営する東堂グループを相手に「東堂グループ、生活保護患者二百人超をたらい回し!五年間で稼いだ診療報酬は八十億円以上か?」といったレポートを発表し株価の下落を狙うものの、事態は思い通りには進まず、一進一退の攻防が繰り返される。

シロアリ屋では、シロアリの駆除で急成長した東京シロアリ防除が行っていた不正な営業活動を告発するレポートを発表。反響は株式市場にとどまらず新聞、雑誌、テレビなどで大々的な反悪質商法キャンペーンに発展する。

商社絵画部では、鉄鋼、非鉄金属、繊維の三部門を柱とする下位の総合商社である三金通商が手がけている絵画取引が舞台。同社ではここ十年くらい絵画部門が稼ぎ頭になっており、これが評価され株価が上昇していた。

絵画部の取引に問題があるというレポートが発表されると株価が下落したものの、三金通商側も高収益のオークションを成功させることで対抗するといった具合。

カラ売りを専業にしているファンドの名前は米国ウォール街のパンゲア&カンパニー。東京都渋谷区神宮前の賃貸マンションの一室の東京事務所に、北川靖、グボイェガ、トニーの3人が集まり、ターゲット企業の問題点を探り出し、レポートとして発表する。

こんな世界もあったのかとの好奇心とともに、闇の世界の不気味さも伝わってくる。(2020年10月発売)

文:M&A Online編集部

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