カラ売り屋、日本上陸|編集部おすすめの1冊
あまり聞きなれない「カラ売り屋」の活動にスポットを当てた小説で「病院買収王」「シロアリ屋」「商社絵画部」の3編からなる。こんな世界もあったのかとの好奇心とともに、闇の世界の不気味さも伝わってくる。
数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
『図解でわかるM&A入門』 桂木麻也 著 翔泳社刊
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この一冊でM&Aの基礎はすべてわかると言ってもよい入門者向けの良本だ。M&Aについてほとんど知らない人でも明快な文章と簡易な図解で、M&Aの歴史や手法、成功と失敗、日本政府のM&A政策、これからのM&Aトレンドを俯瞰(ふかん)的に把握できる。
一言でいえば「単純明快」なのだ。冒頭の日本のM&A略史に当たる「時代の文脈とM&A」はわずか15ページでおよそ半分が図解だが、過不足なくわが国のM&Aの流れとその歴史的な意義、今日のM&A市場とどうつながっているかが過不足なく理解できる。
注目すべきは本書がM&Aの入門書であるだけでなく、バブル崩壊以来「失われた30年」に沈む日本への痛烈な問題提起の書であることだ。「M&Aが失敗する理由」の要因の一つとしてPMI(M&A後の統合プロセス)の失敗を挙げているが、その理由として「日本人の経営スキル不足」を指摘している。
通常、経営スキルとは「経営的な視点を持つ」「先見性がある」「ヒューマンスキルが高い」などのさまざまな能力が羅列されるものだが、本書ではただ一言「企業にかかわるすべてにステークスホルダーの経済的利益を最大化できる経営能力」と説明する。
すなわち従業員を安月給でとことん働かせたり、仕入先に無理難題のコストダウンや短納期を要求したりして利益を上げるトップの経営スキルは「低い」のである。本書終盤の「日本人に求められる事業創造力」では、日本人にはデット(借入金)型人間が多く、返済原資を捻出するためにコストカットを重視する傾向が高かったとみる。これからはエクイティ(返済の必要がない株式資本)型の人間を増やし、企業価値を向上するために新たな事業を創造する力が必要と訴える。
確かに20年前には日本の「高すぎる人件費」が問題視され、国内企業はリストラや給与水準の抑制に走った。それは現在も続いているが、中国や韓国などアジア諸国との人件費格差は大幅に縮小したにもかかわらず、日本企業の国際競争力は低下する一方だ。それどころが所得の減少で内需も伸び悩み、デフレから脱却できない悪循環に陥った。エクイティ型人材を育成すべきとの指摘は的を得ている。
著者はメガバンク、外資系証券会社、国内最大手の投資銀行を経て、現在は大手会計会社系アドバイザリーファームで勤務している。クロスボーダーのM&Aへの造詣が深く、アジアでの豊富な駐在経験を持つ。海外から日本経済を見つめていただけに、客観的な評価ができるのだろう。日本経済再生の道を知るためにも有用な一冊だ。(2020年9月発売)
文:M&A Online編集部
あまり聞きなれない「カラ売り屋」の活動にスポットを当てた小説で「病院買収王」「シロアリ屋」「商社絵画部」の3編からなる。こんな世界もあったのかとの好奇心とともに、闇の世界の不気味さも伝わってくる。