数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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起業家の勇気 USEN宇野康秀とベンチャーの興亡
児玉 博 著・文藝春秋刊

「ヒルズ族の兄貴分」こと宇野康秀USEN-NEXT HOLDINGS<9418>社長の一代記だが、内容は宇野と実父である大阪有線放送社(現・USEN)創業者の元忠のファミリーヒストリーである。

わが国に上場企業を含めて同族経営の企業は多いが、自らが新たな事業を興して成功した二世経営者は少ない。家業の地元大手建設会社を引き継がず、最も規模が小さかった同社の子会社をグローバル衣料チェーン「ユニクロ」に育て上げた柳井正ファーストリテイリング会長兼社長や、長崎県佐世保市の小さな写真店を日本最大のテレビ通販会社に業種転換したジャパネットたかたの髙田明前社長が知られるが、宇野もその一人である。

だが、宇野が柳井や高田と決定的に違うのは、事業で大きな失敗をして家業の経営から引きずり降ろされたことだ。それでも宇野の評価が下がらなかったのは、2007年に祖業のUSENから追い出されながら、2016年にUSENに会長としてに復帰したからだ。

スティーブ・ジョブスが自ら創業したアップルを追われ、NEXTを創業(宇野が意識したかどうかは分からないが、USEN退任後に設立したのがU-NEXT)。後にアップルのトップに返り咲いたが、これは創業者であるからできたこと。国内上場企業で一族経営の会社を追われながら、返り咲いた二世経営者は宇野ぐらいだろう。

本書は宇野が経営者としてのタイプは全く異なるものの、父・元忠の影響を強く受けたことを数々のエピソードから明らかにしていく。その基本は「合理的」であること。イケイケドンドン、トップダウン型の元忠も、社員の声に耳を傾けて徹底的な長時間の議論で意思決定をする宇野も、極めて合理的に会社を経営していた事実を明らかにしていく。

帯には孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長や藤田晋サイバーエージェント社長、村上ファンドで上場企業を震え上がらせた村上世彰、三木谷浩史楽天会長兼社長、ライブドアの創業者である堀江貴文、リクルートを創業した江副浩正など錚々(そうそう)たる名前が並ぶ。

が、宇野と直接関わりがあったのは孫、藤田、村上ぐらい。あとは宇野の経営スタイルと対比するために取り上げた「事例」だ。むしろ本書ではさらりと触れられている光通信の重田康光会長との関係が重要だ。重田はどん底の宇野を支援し、光通信はUSEN-NEXT HOLDINGSの第3位の大株主となっている。

惜しむらくは宇野がUSENを追われた後の、U-NEXTでの「復活ストーリー」にページが割かれていないことだ。経営者としてすべて失った宇野を支えたのは、重田だけでなく、かつて宇野と事業を立ち上げた仲間だちだった。なぜ宇野は逆境で支えてくれる仲間を得ることができたのか、彼らはいかに戦ったのか、興味が尽きない。「続編」に期待しよう。(2020年4月発売)

文:M&A Online編集部・本文敬称略

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