数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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「決算書の読み方 最強の教科書 決算情報からファクトを掴む技術」吉田 有輝 著 ソシム刊
簿記・会計の知識を身に付けたからといって、企業の決算書がすらすら読めるとは限らない。理論と実践の間に高い壁が立ちはだかっているからだ。まだ20代後半ながら、著者自身も公認会計士として駆け出しのころ、「決算書が読める状態」とは程遠い場所にいることを知り、大きなショックを受けたという。そんな体験が本書執筆の動機になっている。
企業の決算書は千差万別だ。儲かっている会社もあれば、業績不振の会社もある。業種が同じでも、事業戦略の方向性によって決算書における数字の表れ方も自ずと異なる。近年は赤字の新興上場企業も増えている。
家具・インテリア最大手のニトリホールディングス。競合をしり目に、なぜ同社だけが一人勝ちできたのか、その理由を有価証券報告書などをフル活用しながら浮き彫りにする。安定的な営業キャッシュフローの儲けを背景に積極的な投資を継続的に行い、店舗当たりの売上高も増加させることに成功したからだという。
フリマアプリ最大手のメルカリは日本初のユニコーン企業として知られる。その同社が赤字でも勝負を続けられるのはどうしてなのか。損益計算書(PL)上は赤字でも、貸借対照表(BS)やキャッシュ・フロー計算書(CS)を確認すると、キャッシュを大量に蓄えているメルカリの優位性が見えてくるというのだ。
決算書には倒産を予兆する危険サインも表れる。スカイマークや江守ホールディングス(黒字倒産)の例から読み解く。また、ファーストリテイリング、住友不動産などを取り上げ、業界ごとの決算書の特徴も実践的に解説する。
M&Aを実行した時の決算書の読み方、買収対象となった会社の特徴にもページを割いている。前者はM&A巧者として名高い日本電産、後者はTOB(株式公開買い付け)合戦の標的となったユニゾホールディングスを取り上げた。
巨額M&Aを繰り返してきたソフトバンクグループは今や投資会社に変ぼうした。有利子負債残高は14兆円(2020年3月期末)にのぼり、その経営上のリスクを指摘する向きがあるが、著者の見立ては?
とかく、「無機質でつまらない」と思われがちな決算書。数字の裏に隠されたストーリーをどう“見える化”できるか。もう一歩踏み込んで決算書を読みこなしたいと思われている人に格好の一冊だ。(2020年8月発売)
文:M&A Online編集部
M&AとPMIを用いた中小企業の治療法や再建手法をまとめた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、業績悪化に直面する企業が相次いでいる今、多くの企業の参考になりそうだ。