数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「半沢直樹 アルルカンと道化師」 池井戸潤 著、講談社刊

またも高視聴率を叩き出したテレビドラマ「半沢直樹」の原作であるシリーズ小説。6年ぶりの最新作だ。先日、最終回を迎えたドラマで取り上げられて話題になったが、本作も全く別のストーリーながらM&Aがテーマになっている。

上役ににらまれ、東京中央銀行大阪西支店の融資課長に左遷された半沢直樹。そこに降ってわいたのが、融資先である老舗美術出版社「仙波工藝社」のM&Aだった。買収を持ちかけたのは仮想ショッピングモールで成功した新興上場企業のジャッカル。年商50億円程度で赤字続きの仙波工藝社に15億円もの「のれん代」をつけるという。

半沢直樹 アルルカンと道化師

しかし、社長の仙波友之は頑として買収に応じない。にもかかわらず支店長や大阪営業本部、本店業務統括部は「M&A取引の強化は頭取の方針」をたてに、同社を説得するよう半沢に圧力をかける。

そうこうするうちに仙波工藝社が企画した大型美術展がスポンサーのトラブルで中止となり、同社は運転資金に窮するように。M&Aを成立させたい上層部は追加融資に難癖をつけ、同社が泣きついてくるのを待つ。

一方、あまりに好条件のM&Aの提案に「不自然な話には必ず裏がある」と感じた半沢は、その背景を調べ始める。すると、かつて仙波工藝社に在籍していた有名画家・仁科譲の名が浮かび上がった。本書タイトルの「アルルカンと道化師」は仁科の出世作であり、代表作でもある著名な絵画という設定だ。

ジャッカルの創業者・田沼時矢は仁科のパトロンであり、作品の熱心なコレクターでもあった。田沼の本当の狙いは何か?半沢は仙波や彼と絶縁状態になった伯母の堂島政子たちから情報を集め、真相に迫っていく。推理小説的な展開だ。

ドラマでおなじみの「倍返しだ!」のシーンは、最終的に本編の問題解決の伏線となる「お祭り委員会」会員企業の大量取引停止で半沢に責任を押し付けた査問委員会と、最終盤でのM&Aの成果を発表する全店会議の場面で登場する。

半沢の「顧客第一」の真摯な業務態度で信頼を得た取引先からの協力と行内シンパによる情報収集力で、彼を陥れようとした上役たちがバッサバッサと論破され切り倒されていく「半沢直樹節」は本作でも健在だ。

半沢にとっての幸運が続く「ご都合主義」的なストーリー展開ではあるが、数々の伏線とどんでん返しは秀逸だ。作品中では「会社を売れ」「いや、売らない」の応酬が続くだけなので、M&Aの知識がなくても楽しめる。(2020年9月発売)

文:M&A Online編集部