数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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『引き際に利己で会社を潰すアホ社長 利他で会社を継ぐデキる社長』鈴木 世一 著 Clover出版刊

「終わりよければすべてよし」「晩節を汚す」…何事にも必ず「終わり」がやって来る。社長もまたしかりだ。どのように社長としての「終わり」を迎え、次世代に経営をバトンタッチするか。本書は中小企業のトップが上手に事業承継をしていく指南書だ。

引き際に利己で会社を潰すアホ社長 利他で会社を継ぐデキる社長

そのために必要な行動は「育て→譲り→退く」に尽きる。後継者を育て、経営を譲ったはいいが、その後もあれこれ口を出し、社内を混乱させる社長(その時は会長や相談役だろうが)もいれば、後継者を育てながらいつまでも譲る決断ができない社長もいる。それどころか、後継者を育てられない社長すら少なくない。

こうした事業承継の失敗は、たった一つの「原因」に起因するという。それは社長が「裸の王様」になること。要は「裸の王様」にならなければ、事業承継に失敗することはないのだ。

だが「言うは易し、行うは難し」。そもそも中小企業の社長は創業者であったりオーナーであったりするので、大企業のサラリーマン社長と違って株主や社内力学に悩まされることはない。それゆえ周囲は社長の機嫌を損ねないように、耳あたりのいいことしか言わなくなる。「裸の王様」にならないのは、思いのほか難しいのである。

そのために先ずは、自分で気づかなくてはいけない。「私は裸の王様になっているのではないか」との前提で、謙虚に自省すること。その上で自分の短所を把握し、それをカバーしてくれる補佐役を置くこと。そして何よりも「社内の声に耳を傾けること」が重要だという。

「会社の問題を解決する答えは社内にある」と著者は主張する。社内の声から問題を把握し、社員と解決策を話し合ううちに、社長は「裸の王様」でなくなる。同時に社内から出た解決策を事業プランとして落とし込み、実行することで社長の後継者も育つのだという。

あとは経営から身を引くタイミングだ。著者は「惜しまれつつ去る」ことを奨励しているが、具体的に「こうなる前に去ろう」「こうなったら去ろう」という目安を示していない。単に「心がけ」を述べているだけにすぎないのが残念だ。「70歳が社長定年」「過去最高益を達成したら引く」などの引退条件を事前に設定しておくといった具体的な提案がほしかった。(2020年5月発売)

文:M&A Online編集部