数あるM&A専門書の中から、新刊を中心にM&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。選書の参考にしてみては?
・ ・ ・ ・ ・
事業承継プラットフォーム なぜ我々は5000社の承継を目指すのか
吉川 明 著・幻冬舎刊
著者は投資信託委託会社の「さわかみ投信」が設立した「Yamato さわかみ事業承継機構」の社長。同社は後継者が見つからない中小企業をオーナーから承継して次の経営者を探し出し、承継後の経営を支援する。そのための資金を「中小企業の存続を応援したい」という志のある人たちに投資してもらう「ソーシャル運用」だという。
本書では127万社が消滅しかねない中小企業の「大廃業時代」を迎え、企業生態系の基礎が崩れることで日本経済が没落すると警鐘を鳴らす。国内どころか世界でも指折りの独自技術や製品を持つ優良な中小企業ですら、事業承継ができずに廃業していく現状を嘆く。これは個々の中小企業に問題があるのではなく、事業承継に資金と個人保証という問題が立ちはだかる制度上の壁があるからだと指摘する。
M&A仲介会社による事業承継もあるが、対象となるのは中小でも企業価値が大きい案件に集中する。そうした仲介企業の「網」から漏れた中小企業の事業承継を支援するプラットフォームが必要と説く。なぜプラットフォームなのか?タネを明かせば、著者たちが事業承継した企業は自動的にYamato さわかみ事業承継機構のグループ会社となる。その結果、単独では脆弱(ぜいじゃく)な中小企業が、グループとなることで大企業に負けない資金力や購買力を持つことができるという。
タイトルにある5000社も「5000社あったら、コピー機も5000台の需要がある。そうしたら、メーカーにとっても、超大手の顧客になります」と、「規模の経済性」を実現するため。著者が目指すのは1社1社の中小企業を事業承継で存続することではなく、中小企業を束ねることで大企業に匹敵する企業グループを構築する「企業再編」なのだ。
ただ、5000社も集めるとなると業種もバラバラだろうし、出来上がるグループは昔ながらの財閥型コングロマリットになるだろう。旧来の財閥系コングロマリットがM&Aを駆使してコア事業に「選択と集中」を進めているのとは、全く逆の動きになる。最悪の場合は、まとまりのない「烏合の衆」になるか、反対にグループ会社の強力な支配下で傘下の中小企業はフランチャイズ化する危険性もある。
難しいチャレンジだが、不可能とは言い切れない。その成否はグループ会社の「企業理念」にかかってくる。本書にも同社の企業理念は紹介されているが、グループ内向けの性格が強いように感じた。5000社を束ねるとなると、社会の中でのグループのありようを経営理念で明らかにする必要がある。現在の企業理念にある「Win-Win-Win-Win-Win-Winを考えよう(仲間、取引先、債権者、国家、株主、未来)」は抽象的だし、「死ぬ時に、生まれ変わってもう一度やりたいと言える仕事をしよう」は企業理念というよりも「社員の心得」だ。もうひと工夫ほしい。(2020年5月発売)
文:M&A Online編集部
著者は金融機関の勉強会やセミナーの講師を引き受け、税などの取り扱いや医療承継支援の具体例などを発信してきた。この講義録をベースに金融機関向けの医業承継入門書としてまとめられたのが本書。
ブリッツスケールとは爆発的な成長という意味。日本版ブリッツスケール企業の代表例としてM&A仲介業の日本M&Aセンターを取り上げ、ブリッツスケールを支える仕組みなどを紹介している。
M&Aの現場を立体的に理解するうえで、うってつけの一冊。M&Aの具体的な流れをストーリーを交えて解説する。案件着手からクロージング(取引成立)までの時系列に沿って、その要点を大づかみできる。