M&Aとは? 基礎知識・目的・手法・事例をわかりやすく解説

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M&Aは企業の合併と買収を表す「Mergers and Acquisitions」の略語。複数の企業を合併によって一つに統合したり、ある企業が別の企業の株式や事業を取得することを指します。

M&Aを成長戦略の柱としている日本電産<6594>は、積極的に企業を買収する理由を「時間を買う」と表現しています。M&Aによって素早く顧客や取引先、経営ノウハウを手にすることができます。買い手側にとって、M&Aは会社を急速に発展させるための成長投資という意識が強く働いています。

売り手側は資本力のある会社に入ることにより、永続的な事業展開が望めるほか、顧客の拡大、取引先統合による仕入単価の削減など、様々なメリットが得られます。

M&Aの現状や今後の展望

【M&Aとは】M&Aの現状や今後の展望のイメージ


2021年のM&Aの適時開示ベースでの件数は877件。2020年を28件上回り、2008年の世界金融危機以降で最多となりました。コロナ禍の収束が見えない中、企業の成長投資が積極的に行われていることが示されました。

近年はM&Aの取引額が大きくなっていることも特徴的です。取引金額100億円以上の件数の推移を見ると、増加傾向にあるのがわかります。2022年は1-9月で前年比8件増の63件となりました。

【M&Aとは】M&A:取引金額100億円以上の件数推移のイメージ
※M&A Online「100億円超の大型M&A、6年ぶりに年間80件を上回るハイペース」より。2022年は1~9月の集計。適時開示ベース


巨額のM&Aも少なくありません。2021年の主なM&Aに、日立製作所<6501>の米IT企業グローバルロジックの子会社化(1兆400億円)、パナソニック(現:パナソニックホールディングス)<6752>によるサプライチェーンソフトの米ブルーヨンダーの子会社化(7,800億円)などがあります。

また、大手企業を中心に海外企業のM&Aが目立つようになりました。武田薬品工業<4502>は、2019年1月のアイルランドの製薬大手シャイアーの買収に6兆2,000億円もの資金を投じて世間を驚かせました。

海外企業の買収は、最先端技術の獲得や、海外拠点の構築、顧客基盤の拡大などを狙って行われます。

M&Aの目的

M&Aは売り手側、買い手側で実施する目的が異なります。売り手側の目的から見ていきましょう。

売り手側の視点

M&Aを実施する目的は大きく四つに集約されます。

・後継者問題の解決
・従業員の雇用の維持と技術の承継
・創業者利益の獲得や早期リタイアの実現
・事業の選択・集中

後継者問題の解決

中小企業を中心にM&Aが活発に行われている背景の一つが後継者問題です。

東京商工リサーチによると、2020年の社長の平均年齢は62.5歳。2015年は60.9歳でした。年を重ねるごとに、社長の平均年齢も上がっています。

かつては家業を親族が継ぐのは当たり前だと思われていましたが、現在は価値観の多様化によって本人が望む仕事に就くことを容認するようになりました。

会社の幹部に引き継ぐのも困難が伴います。下請けを行う製造業など古い商習慣に囚われている会社は事業を発展しづらく、進んで経営者になりたがらないためです。また、株式の譲渡金を用意できなかったり、会社の借金の個人保証をすることを嫌う人もいます。

M&Aであれば、買い手側に十分な資本力があり、永続的な発展が望めます。また、仕入先の統合によって原価率を下げられたり、優秀な経営者やマネージャーを招くなど、事業を発展させるための足掛かりもつかめます。売り手側と買い手側の双方にとってWin-Winの関係となるのがM&Aの特徴です。

従業員の雇用の維持と技術の承継

2022年5月の後継者不足による倒産件数は40件(東京商工リサーチ「2022年5月『後継者難』倒産の状況調査」より)。2022年3月の50件に次いで多いものでした。後継者不足による倒産は毎月数十件単位で起こっています。

会社が倒産し、解散してしまえば従業員は路頭に迷うことになります。これまで培ってきた技術やノウハウも、失われてしまいます。M&Aを行えば、従業員の雇用や技術を守ることができます。

一部の人々の間では、M&Aは第三者が乗り込んでくる乗っ取り屋のイメージを持っています。会社の経営効率を高めるため、次々と解雇を言い渡す場面を想像する人がいるかもしれません。

確かに、倒産した会社を再生する事業再生M&Aにおいては、企業価値を高める目的で組織のスリム化を図ることがあります。しかし、通常のM&Aにおいて従業員が急に解雇されるようなことはほとんどありません。

買い手側は、M&Aで手にした会社の従業員を、事業を発展させるための要であると認識しているためです。買収された側の従業員は、取引先や顧客の拡大、ITの吸収などにより、むしろ仕事をしやすくなることもあります。

創業者利益の獲得や早期リタイアの実現

株式を売却することによって、創業者は譲渡金を得ることができます。譲渡金は中小企業であっても数千万円から数億円になることも多く、多額の資金を得ることができます。

また、会社の借入の個人保証が外れるため、ローンも組みやすくなります。何より気持ちの面で楽になれるでしょう。

事業への想いが強い人は、譲渡金で再び会社を立ち上げ、経営に邁進する人もいます。若手を育成する目的で、エンジェル投資家を選ぶ人もいます。

会社を売却した後は悠々自適に暮らすこともできますが、事業家としてのノウハウを活かして、新たなビジネスを切り開くことも可能です。

事業の選択・集中

複数の事業を展開する会社が非中核事業を売却し、主力事業に経営資源を集中させることがあります。スリム化させることにより、売上高の成長スピードを上げ、高利益体質の組織づくりを行うのです。

日本たばこ産業<2914>は2022年12月に、しゃぶしゃぶレストラン「しゃぶ葉」などを運営するクリエイト・レストランツ・ホールディングス<3387>に、ベーカリーショップを運営するサンジェルマン(神奈川県横浜市)の全株を譲渡することを決定しました。

このM&Aは日本たばこ産業の非中核事業の売却。日本たばこ産業は国内で喫煙者が減少することを危惧し、食品事業などへと手を伸ばしました。2002年5月にサンジェルマンの全株を取得しています。

しかし、サンジェルマンはコロナ禍の影響もあって3期連続の赤字。クリエイト・レストランツ・ホールディングスへの売却を選択しました。

買い手側の視点

次に買い手側がM&Aを行う目的について見てみましょう。その目的は大きく四つに分けられます。

・新規事業への参入
・シェアの拡大(水平統合)
・バリューチェーンの構築(垂直統合)
・優秀な人材の確保

新規事業への参入

先ほどの日本たばこ産業のサンジェルマンの全株譲渡は、買い手のクリエイト・レストランツ・ホールディングスから見ると、新規事業への参入です。

クリエイト・レストランツ・ホールディングスは、居酒屋や洋食レストラン、フードコート、ゴルフ場のレストランなど、様々な業態の飲食店を展開していました。同社はM&Aによる拡大戦略をとっており、2013年4月に居酒屋「磯丸水産」を展開するSFPホールディングス<3198>の株式を取得して居酒屋事業へと本格的に進出しました。

M&Aによって新規参入した居酒屋事業により、クリエイト・レストランツ・ホールディングスは成長軌道に乗ります。

しかし、コロナ禍で居酒屋を取り巻く商環境が一変。アフターコロナに対応した事業展開が必須となりました。そこで目をつけたのが、ベーカリーショップという業態です。

飲食店をゼロから立ち上げるのは時間がかかります。ましてや新たな業態の立ち上げとなると、取引先の開拓から始めなければなりません。時間を買うと言われるM&Aであれば、迅速に事業化できます。

シェアの拡大(水平統合)

同業同士がM&Aを行い、シェアを拡大することもよく見られます。

NKK(日本鋼管)と川崎製鉄が2002年9月に経営統合し、JFEホールディングス<5411>を発足させました。国内鉄鋼業界では1970年に八幡製鉄と富士製鉄の合併で新日本製鉄が誕生して以来約30年ぶりの再編劇でした。当時海外では鉄鋼メーカーの大型再編が相次いでおり、NKK、川崎製鉄の両社は統合によって事業規模の拡大や効率化を図り、世界市場での生き残りを目指しました。

その後、新日本製鉄は2012年に住友金属工業との統合で新日鉄住金(現:日本製鉄、2019年4月に社名変更)を発足させました。これにより国内鉄鋼業界は2大陣営に再編されることになりました。

神戸製鋼所も大手の一角を占めますが、同社は機械部門や非鉄部門などのウエートが高く、独自の立ち位置をキープしています。

鉄鋼は国内の需要が縮小しているため、大手企業の再編が激しい業界です。日本製鉄は2019年1月に系列の日新製鋼を完全子会社化、続いて2020年4月に吸収合併しています。

ドラッグストアも大手企業のM&Aによるシェアの獲得合戦が激しい分野。M&Aを繰り返して売上高が1兆円を超えたウエルシアホールディングス<3141>の急拡大に危機感を覚え、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合し、2021年10月にマツキヨココカラ&カンパニー<3088>が誕生しました。

M&Aによる水平統合も、シェア拡大の一種。水平統合とは製品やサービスを供給するためのバリューチェーン上に定義される特定の行程において、それを提供する企業グループが一体化することを指します。

水平統合により、同一の製品やサービスを提供する企業が連携し、規模の経済によるメリットを享受することができます。

バリューチェーンの構築(垂直統合)

商品力を高めたり、仕入の効率化を図るためにM&Aを行うことがあります。

しゃぶしゃぶ店を運営する木曽路<8160>は、2022年10月に食肉加工の建部食肉産業(名古屋市)の全株式を取得しました。木曽路はアフターコロナを見据え、焼肉店を買収していました。焼肉業態の店舗拡大の計画において欠かせない供給体制を構築するため、食肉加工会社をグループに入れました。

バリューチェーンの構築に似ているのが、M&Aの垂直統合です。

垂直統合とは、製品やサービスを供給するためのバリューチェーンに沿って、一部の工程を統合することを指します。

通常、製品を生み出すバリューチェーンは数多くの企業が複雑に入り組んでいます。その場合、取引する企業間で軋轢が生じてしまいます。例えば、工場は原料を安く仕入れようとする一方で、原料を供給する会社は少しでも高く売りたいと考えます。

これらの工程を統合して利害関係を一致させ、効率的かつ安定的に製品を作ろうとするのが垂直統合です。

優秀な人材の確保

M&Aには「アクイ・ハイヤー」という言葉があります。買収(acquisition)と雇用(hire)を掛け合わせた造語で、優秀な人材を獲得することを目的としたものです。

人材の育成には時間がかかります。現場で経験を積んだ人材が、優秀な経営者になれるわけでもありません。どれだけ経験を積ませたとしても、会社を任せられるという保証はないのです。

その点、M&Aを行うことで経営に適した人材の確保ができます

スタートアップ経営者は斬新なアイデアを持ち、ITスキルや企業同士のネットワークを持っていることが少なくありません。そのような人をM&Aで取り込むことにより、会社を成長させるきっかけにできます。

M&Aのメリット・デメリット

【M&Aとは】M&Aのメリット・デメリットのイメージ


M&Aを行うことで、何もかもが上手くいくわけではありません。
当然、メリットやデメリットがあります。売り手と買い手の視点に分けて解説します。

売り手

メリットは三つ、デメリットも三つあります。

【メリット】
・事業拡大のチャンスをつかめる
・取引先や顧客、従業員を維持できる
・多額のキャッシュが得られる

【デメリット】
・交渉が煩雑
・従業員や取引先の賛同が得られないことがある
・売却益に税金がかかる

M&Aは会社を存続、発展させるための手段です。資本力のある会社の傘下に入り、顧客基盤や取引先が広がることによって事業拡大に期待ができます。飲食店であれば、小規模店が全国チェーンに発展することもあるでしょう。製造業では海外進出を果たせるかもしれません。

取引先との関係も継続でき、従業員の雇用も維持できます。

株式の売却益が得られる点もメリットの一つです。企業価値は様々な方法で算出されますが、成長スピードが速い会社や、他社にはない独自の技術を持っている場合は、高い値段がつくことがあります。

売り手側は、買い手側に決算書などの必要書類を用意し、開示する必要があります。経営状態を丸裸にされる書類の開示に二の足を踏む人も少なくありません。また、何らかの経営上の欠陥が見つかった場合、それを価格交渉の材料にされることがあります。書類の開示や交渉には時間がかかり、経営者によってはストレスを感じる場面です。

M&Aのイメージが悪く、従業員や取引先からの賛同が得られないこともあります。特に従業員の離反は買い手側にとっては避けたいもの。商品やサービスの質が仕入先に依存しているのであれば、取引先との関係は当然重視されます。

経営者は利害関係者すべてを納得させなければなりません。

また、株式の売却益には税金がかかります。一般的な株式譲渡の場合、譲渡収入から取得費、譲渡費用を引いた金額の20.315%が税金です。

買い手

買い手のメリットは五つ、デメリットも五つあります。

【メリット】
・時間の節約
・生産の効率化
・競争力の強化、シェアの拡大
・新規市場への参入
・シナジー効果

【デメリット】
・資金調達
・のれんの減損損失による多額の赤字
・統合に時間がかかる
・人材の流出
・計画していたシナジーがない

M&Aの一番のメリットは何と言っても時間の節約でしょう。そのほかのメリットとして、生産の効率化、競争力の強化、新規市場への参入を挙げましたが、これらは自前でも構築、推進することができます。しかし、時間を短縮するという側面において、M&A以外に有効な手段は見当たりません。

買い手側の視点として重要なのは、M&Aが成長への投資であるということです。工場や販売店を新たに建てて事業を拡大するか、すでに設備投資が済んでサービスを生み出すプロセスが構築された企業や事業を手にするか。その違いに注目すると良いでしょう。

デメリットとしては、資金や業績に響く点が挙げられます。M&Aは多額の買収資金を用意しなければならず、一般的に譲渡金を分割払いで支払うことはありません。現金を用意する必要があります。

多くのM&Aでは、純資産額よりも高い金額で買収します。その差額はのれんとして固定資産に計上されます。シナジー効果が生まれ、計画通りに業績が拡大していれば良いですが、M&A後に人材が流出した、想定していたよりもシナジー効果が生まれないなどの理由により、収益性が悪化することもあります。

その場合、企業価値を正しく算出しなおし、場合によってはのれんを減損損失して多額の特別損失を計上することにもなりかねません。大赤字の要因にもなります。

M&A Online編集部

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。


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2022-09-01

若葉総合税理士法人東京事務所(東京都文京区)の太田陽平公認会計士・税理士は、専門学校の推薦で買った電卓を使い続けている。

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