M&Aとは? 基礎知識・目的・手法・事例をわかりやすく解説

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M&Aの手法・スキーム

M&Aのスキーム(M&Aを実行するための手法)は大きく分けて七つに分類できます。

・株式譲渡
・事業譲渡
・株式交換
・株式移転
・株式交付
・合併
・会社分割
・第三者割当増資

なお、ここでは広義のM&Aである、資本業務提携は扱わないものとします。

株式譲渡

M&Aのスキームの9割程度が株式譲渡だと言われており、最も一般的なスキームです。特に中小企業のM&Aにおいては、ほとんどが株式譲渡で行われています。

株式譲渡は、売り手が保有する株式を買い手に譲渡することです。株式譲渡は会社のオーナーが変更するだけであり、資産や取引契約、賃貸借契約などをそのまま引き継ぐことができます。売り手と買い手が株式譲渡契約を締結し、代金を支払うという比較的シンプルな方法でM&Aが行えます。

株式譲渡の注意点として、簿外債務や税金の未納などがあった場合、その支払い義務も買い手側に引き継がれること。慎重なデューデリジェンスが必要な理由の一つです。

事業譲渡

売り手の事業を買い手に譲渡することです。事業の一部を譲渡することを一部譲渡、すべて譲渡することを全部譲渡と言います。事業譲渡は、非中核事業を譲渡する場合などに活用されます。

事業譲渡は株式の移転を伴わないため、オーナーはM&A後も引き続き会社の支配権を持ちます。

事業譲渡は事業運営に必要な要素を切り出すスキームです。そのため、売り手と買い手は事業に必要な資産、負債、取引先との契約、従業員などを決め、それらを移転します。

そのため、手続きが煩雑です。一例を挙げると、従業員の雇用契約を買い手側が結びなおさなければなりません。従業員は転籍になるためです。

事業譲渡は手続きに時間がかかる一方で、買い手側は事業運営に関係のないもの(意図しない第三者との関係や簿外債務など)を遮断することができ、リスクを排除できるというメリットがあります。

株式交換

株式交換は、譲渡対価に株式を交付する方法です。売り手側の株式を買い手が取得するところは株式譲渡と同じですが、その対価が譲渡金であるか、親会社となった株式であるかに違いがあります。

株式交換は買収資金が不要である点がメリットです。その一方で、買い手側の株主構成が変化するというデメリットがあります。

株式交換は主に組織再編に活用される手法です。

2022年9月に医薬品製造のエーザイ<4523>は連結子会社サンプラネット(東京都文京区)を完全子会社化しました。このとき用いられたのが株式交換です。サンプラネットの普通株1株に対して、エーザイの普通株52株を割当交付しました。

株式交付

株式交付は、会社を買収するための対価として株式交付を行うものです。2021年に会社法上に新たに創設されたM&Aのスキームです。

株式交換と近いものですが、株式交換は議決権の過半数を取得して子会社化する場合などには用いられません。株式交付は株式の一部を取得することができる点に違いがあります。

株式移転

株式移転は新たに会社を設立し、買収対象となる会社の発行済株式の全部を新設会社に取得させることです。新設した会社を株式移転設立完全親会社、株式移転によって完全子会社となる会社を株式移転完全子会社と言います。

株式交換はすでにある会社が買収対象の会社の株式を取得し、対価として株式を交付します。株式移転は会社を新たに設立するところに違いがあります。

出版社のKADOKAWAは、2014年5月に「ニコニコ動画」のドワンゴと経営統合すると発表しました。このとき用いられた手法が株式移転で、2社の完全親会社となるKADOKAWA・DWANGO(その後KADOKAWA<9468>に商号変更)を設立しました。

合併

合併は複数の企業を一つに統合する手法です。被合併会社は解散し、資産や負債、権利、契約などのすべてを合併会社が引き継ぎます。

合併には吸収合併と新設合併の2種類があります。吸収合併は、存続会社に被合併会社が吸収されて消滅するもの。新設合併は合併する会社同士で新たな会社を設立し、資産や負債、権利、契約などのすべてを引き継ぐものです。

買収との大きな違いは、吸収された会社が消滅する点です。

合併のメリットは、経営を一元化することで経営の効率化が図れることです。事業部や部署、管理システムなどを統合することができます。

しかし、合併は手続きが極めて複雑。システム統合などを実行する技術者や、手続きを行う専門家に支払うコストが嵩む傾向があります。

2021年4月にスーパーマーケットを展開するサミット(東京都杉並区)は、衣料品チェーンを運営するサミット・コルモ(東京都杉並区)を吸収合併しました。衣料品も一体運営することにより、経営の効率化を図りました。

会社分割

会社分割は、会社の一部またはすべての事業を切り離し、別の会社に移転することです。会社分割は、新設分割と吸収分割の2種類があります。

合併と似ていますが、会社が消滅しない点に違いがあります。また、事業譲渡とも似ていますが、会社分割は会社法上の組織再編に該当します。事業譲渡は会社法上、事業資産を個別に取引する売買行為であり、組織再編には該当しません。

新設分割は、新しく設立した会社に事業の一部またはすべてを引き継ぐこと。吸収分割は承継会社に事業を移転することを指します。

第三者割当増資

第三者割当増資は、第三者に新株を割り当てる増資のこと。原則として増資時点での時価により実施しなければなりません。しかし、株主総会の特別決議で可決された場合は時価より低い価格での実施も可能です。

第三者割当増資は、経営再建や割当先との関係強化を目的として行われます。また、敵対的買収への対抗措置として買収会社の持株比率を下げるために実施する例もあります。

株式数が増加するため、既存株主は持株比率の低下を伴うというデメリットが生じます。

第三者割当増資の変形型として、新株予約権の割当があります。

企業価値評価

M&Aにおいて最も重要な要素の一つが企業価値評価。買収する企業の様々な情報をもとにその価値を算出します。なお、絶対的な企業価値評価というものはありません。買い手が複数候補に挙がっている場合、提示する金額には必ずバラつきが生じます。

企業価値を算出するためには、経済的価値がどこに属するものなのかを明確にする必要があります。株主価値はその代表的なものです。企業全体の価値から負債を差し引いたものが株主価値。事業の価値を求めれば事業価値です。

評価方法は大きく三つに分かれます。

・コストアプローチ
・マーケットアプローチ
・インカムアプローチ

それぞれの方法について概要を解説します。

コストアプローチ

コストアプローチは会社が保有している資産をすべて売却し、再調達する際にかかる再調達原価をもとに企業価値を算出する方法です。

代表的なものに簿価純資産法があります。簿価純資産法は、決算書に計上されている資産から負債を差し引いたものです。簿価純資産法は総資産の簿価を再調達原価だと想定し、そこから負債を差し引いて企業価値としています。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、買収対象の同業他社の時価総額を比較したり、類似の買収事例などを参考にして企業価値を算出する方法です。

マーケットアプローチは、同規模の競合会社が上場している場合に用いられます。しかし、比較対象となる会社がない場合や、あっても上場していない場合は有効手段にはなりません。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、企業の収益や将来のキャッシュフローをもとに企業価値を算出する方法です。代表的なものにDCF法があります。

DCF法は、ディスカウンテッド・キャッシュ・フローの略語。会社が将来的に生むキャッシュフローを割り出し、WACCと呼ばれる資本コストで割り引いて現在価値を出します。

DCF法は将来性を加味した価値の算出方法で、一定の合理性があります。大企業のM&Aでよく活用される手法です。ただし、将来の事業計画の精度が重要であり、計画の甘さから高値づかみになることも少なくありません。

M&A Online編集部

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2022-09-01

若葉総合税理士法人東京事務所(東京都文京区)の太田陽平公認会計士・税理士は、専門学校の推薦で買った電卓を使い続けている。

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