では、「いいプレッシャー」と不適切会計に手を染めるような「悪いプレッシャー」に違いは何なのでしょうか。
それは、「 利益目標を達成したプロセスや手段について関心が払われているか」ではないでしょうか。
例えば不適切会計により利益が達成された部門に業績連動のボーナスが加算され、適切な会計を行っていて利益未達成だと「激しく叱責」されることがあれば、当然ながら不適切な会計でもなんでも行って業績達成を目指すでしょう。
「結果(業績)さえよければ、その過程はなんでもOK」ということになると、不適切会計を行う業務自体が通常業務と化し、善悪の判断も鈍ります。業績は、様々な事業の努力やプロセス改善の結果です。本来は、その達成プロセス(how)に上席者は関心を持つべきと考えます。
結果だけを出す、つまり業績を達成するために、優秀な従業員の皆さんが知恵を駆使して不適切な会計のスキームを考え、取引先に請求書の改ざんや、在庫の引き受けをお願いし、会計監査人向けに社内の資料を改ざんした説明資料を作成している時間は、なんとももったいない時間です。
ちなみに、いくらプロセスを重視しても上席者がコンプライアンス違反を奨励するような行動をとった場合、それはもはやプレッシャーの良し悪しのレベルの問題でないことは一言加えておきます。
プレッシャー自体は「悪」ではないと書きましたが、もちろん程度の問題はあるでしょう。「ストレスが高くなるほどパフォーマンスはよくなるが、ある一線を超えると、パフォーマンス自体が低下する、つまりどこかに最適ストレスがある。」という法則が心理学の世界ではあるそうです。
例えば、「会社の存亡の危機だ。」とか「この目標が達成できないと事業をやめるぞ。」といったプレッシャーを毎月与え続けるといったことがこれにあたるのではないでしょうか。このような過剰なプレッシャーのもとだと思考や行動が硬直してしまうそうです。過剰にプレッシャーを与え続け、危機感をあおるのは逆効果なようです。
では、最適プレッシャーはどこにあるのか。もちろん簡単な回答はありませんし、個人差ももちろんあるでしょう。経営層だけでなく、部課長も含めてリーダーとなる人は、それぞれの立場で自分が率いるメンバーが置かれている現状をよく観察し、知っておくことを心がけ、メンバーの思いに敏感になっておくことが必要でしょう。