本シリーズでは、M&Aの主幹部門が、ディールの効率・確度を上げるために、法務・知財部門とどのように協力すればよいのかをわかりやすく解説していく。

シャープ、テスラ日本法人を特許侵害で訴える

2020年になってシャープによる特許権侵害訴訟が目立っている。2020年1~3月に相次いで、LTE無線アクセスに関してテスラモーターズジャパンを東京地裁で訴えている。

シャープは2020年3月23日のニュースリリースで「当社では、保有する知的財産権を重要な経営資源と位置付けており、より広い分野での応用が期待されている通信技術の分野において、世界50か国以上で合計6,000件以上の通信規格特許を保有し、今後も当社の知的財産権が侵害されていると判断した場合は、常に厳正に対処していく」と公表している。

また、シャープは、スマートフォンの通信に関しても、今年、中国のスマホメーカーOPPOを日本とドイツで訴えている。通信をめぐる知財の係争は、スマホのみならず自動車産業まで巻き込んでおり、IT技術の発展により、巻き込む産業は更に広がっていく可能性がある。

決着した案件を見ると、金額のインパクトがわかる。2019年にQualcommがAppleを5G関連で訴えていたが、和解している。和解金として、Qualcommは2019年第3四半期に47億米ドルもの金額を計上している。このように一度、知財に関する訴訟が起きると、企業の業績に与える影響は大きい。

M&Aに大きな影響を与える知財係争

知財係争はM&A取引においても大きな影響を与える。デューデリジェンス(DD、資産査定)における対象企業への質問で、係争がないか、警告書を受け取っていないかの確認を行う。係争があるとの回答であれば、具体的にどの国、どの製品で影響があるかの推定を行い、また、勝てる見込みがあるのかを確認する。

勝てる見込みが低く、主力製品の販売差し止めや多額の賠償金支払いの可能性があれば、ビジネスが成り立たず、M&A取引そのものを取りやめる可能性も出てくる。勝てる見込み(証拠)があり、ビジネスへの影響が大きくなければ、M&A取引を進めていくことになると思うが、最終契約(株式譲渡契約等)のコベナンツ(Covenants)条項にて、係争の対応義務を定めたり、買収金額の減額を要求したりすることになる。