ご注意ください
この記事は公開から1年以上経っています。掲載されている情報は、公開当時のものです。

【M&A法務】ガンジャンピングについて

alt

ガンジャンピング(gun jumping)というのは、企業結合期日前の共同行為のことで、結合実行前に当事者間で協調的な行動をとったり情報交換をしたりすることです。これが、独禁法違反になるのではないかが議論されています。

そもそも「ガンジャンピング」(和製英語でいえば、「フライング」)という言葉自体、ルール違反で失格、という意味合いを連想させますが、そういう意味では法務担当者の目を惹く、なかなかうまいネーミングとはいえそうです。

しかし、日本では、少なくとも企業結合規制で引っかからない(≒合算シェアの低い)大半の事案では、ガンジャンピングを気にする必要はありません。

そもそもガンジャンピングとして議論されているものには、実体法違反と手続法違反があります。

そのうち、実体法違反については、ガンジャンピングの実例がある米国では企業結合とカルテルの違法基準が異なることがポイントです。

つまり米国では、競争者間の共同行為は当然違法と判断されるのに対して、企業結合は競争の実質的制限があってはじめて違法と判断されます。

ここが日本と決定的に違うところです。

(細かいことをいえば、競争者間の共同行為でも、ジョイントベンチャーなどいわゆる非ハードコアカルテルは合理の原則で判断されますが、企業結合前の当事者間にはジョイントベンチャーのような事業活動の一体化がないので、当然違法で判断されるわけです。)

つまり米国では、たとえ合併交渉中であっても、合併が実現するまでは競争者としてふるまうことが要求されているわけです。

これに対して日本では、企業結合もカルテルも、違法性の基準は競争の実質的制限の一本です。

そこで、米国では、

市場シェアの小さい競争者間の合併の場合でも、合併前の共同行為が当然違法として違法とされることになる

のに対して、日本では、

合併自体に問題ない(競争の実質的制限が生じない)なら、その前の共同行為も問題ない(競争の実質的制限が生じない)、

ということになります。

なので日本では、企業結合として問題のないケース(つまり企業結合のほとんどすべての案件)では、ガンジャンピングで何をしても問題ない、ということになります。

次にガンジャンピングの手続面についても、アメリカと日本でかなり考え方が異なります。

アメリカでは、待機期間が満了するまでは、benefitial ownership(実質的に所有者としての利益を享受できる地位)を取得してはならないということになっていて、形式的な所有権譲渡さえなければかまわないというわけではありません。

実際アメリカでは、どう考えても競争制限効果のなさそうな、市場シェアの小さな当事者間の結合が、ガンジャンピングで差し止められたりしています。

これに対して日本では、あくまで法的に(形式的に)所有権譲渡がなされていたかどうかが重視され、そこに実質判断が入ってくることはあまり想定されていません。

そのことは、最近のキヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得が、「グレーだがクロとはいえない」ということで、結果的に不問に付されていることからもうかがえます(新聞報道では、次は刑事告発するそうですが)。

以上のことから、実体面でも手続面でも、日本では、企業結合審査で問題視されそうな事案(たとえば2次審査に行って一部条件が付きそうな案件など)をのぞいて、ガンジャンピングは気にする必要はない、ということになります。

さらにいえば、結合の実体面で問題がありそうな事案であっても何もできないわけではなく、結合前の共同行為(情報交換など)それ自体で競争の実質的制限が生じない限りは違法(カルテル)にはならないので、その意味でも、やろうと思えば相当なことができます。

おそらく公取委も、ガンジャンピングを積極的に取り締まろうという発想はないと思います(法律が違うのだから、当然といえば当然です)。

ガンジャンピングは一時期、一部の弁護士が大騒ぎしたので有名になってしまいましたが、大騒ぎされた論点が必ずしも重要な論点ではない、という例だと思います。

(なお、ガンジャンピングについては、白石忠志『独占禁止法(第2版)』324頁以下に、丁寧かつ正確にまとめられています。)

※このブログは私の個人的な見解を述べるものであり、私の所属する 日比谷総合法律事務所の見解とは関係ありません。 

本記事は「弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。」より転載しております

植村 幸也 (うえむら・こうや)

日比谷総合法律事務所で競争法を中心とした企業法務を取り扱っております。

【資格】
弁護士・ニューヨーク州弁護士

【主な活動】
一橋大学法科大学院非常勤講師(競争法)、国際法曹協会反トラスト法委員会委員、国際競争ネットワーク(ICN)非政府アドバイザー

【主な著書・論文】
『実務に効く 公正取引審決判例精選』(共著・有斐閣)、『論点体系 独占禁止法』(共著・第一法規)、『実務解説 消費税転嫁特別措置法』(商事法務)、『実務解説独占禁止法』(加除式・第一法規)、「実務解説 消費税引上げに伴う独禁法特別措置法への対応」ビジネス法務 (2013年7月号)、「米国反トラスト法実務講座(全12回連載)」 公正取引735号 (2012年)以降連載、「JASRAC私的独占事件の排除措置命令取消審決について」NBL 981号 (2012年)、「優越的地位の濫用による初の課徴金納付命令と実務への影響」会社法務A2Z (2012年3月号)、「米国新水平的合併ガイドラインおよび欧州新水平的協定ガイドラインがわが国の独禁法解釈に及ぼす影響」NBL949号 (2011年)


NEXT STORY

【法務】企業結合審査を回避する目的で「デザイン」された買収スキームに対する米国及び欧州の独禁当局の制裁

【法務】企業結合審査を回避する目的で「デザイン」された買収スキームに対する米国及び欧州の独禁当局の制裁

2019/10/02

企業結合審査の届出及び待機期間の規制を回避する買収スキームを採用したことに関して、米国司法省が、キヤノン及び東芝に対し罰金を科し、さらに、欧州委員会が、キヤノンに対し、制裁金を科す旨の決定をしました。