前田道路がその株式の約24%を保有する前田建設工業による公開買付けに対して、1株あたり650円、総額約535億円もの特別配当を行うことをもって対抗している件が話題である。

事案の概要については本サイトの以下の各記事を参照されたい。

「前田道路が反撃、敵対的TOBつぶしに535億円の特別配当」
「敵対的TOB渦中の前田道路が“二の矢”|業界最大手のNIPPOと資本業務提携へ」

本稿では、本件の開示資料をもとに特別配当による買収防衛策の問題点について検討を試みたい。

特別配当実施による現金流出の妥当性

前田道路では、今回の特別配当により、現金・現金同等物(連結ベース)850億円超のうち、約535億円もの極めて多額の現金流出が行われることになる。そのため、報道では前田道路による特別配当をして、買収防衛策としての手段である「クラウン・ジュエル(の売却)」、「焦土作戦」ではないかと指摘する声もある。

もっとも、前田道路は有利子負債残高がないキャッシュリッチ企業であり、一般論としては投資に回さない余剰現金があるのであれば、株主還元することが望ましいとも言える。

前田道路のプレスリリースでも、特別配当により、同社が重要な経営指標としているROE(自己資本利益率)の改善への寄与も期待されるとしている。このような一般論は、(前田道路は財務体質・企業価値向上策に実質的な悪影響を当たらない範囲の金額であるとしているものの)これだけの巨額な配当で、しかも、平時には行われなかったにもかかわらず敵対的買収が行われるという有事の局面で初めて行われているという意味で、果たして妥当するものであろうか。

特別配当の基準日はいつか

このような特別配当実施による現金流出の妥当性は、特別配当を受けることができる株主を決する基準日が関係してくる。

前田道路は、前田建設工業による公開買付けの決済開始日前の日である3月6日を基準日として特別配当を行うことを決議している。その結果、公開買付けにより前田建設工業に株式を売却した株主も、特別配当を受けられることとなる。このような基準日設定をどのように考えるべきか。

これは、①公開買付けに応募したことにより株主でなくなった者に現金が流出することを意味しないか、②公開買付けに応募しても特別配当を受け取れるとなると、一般株主にキャピタルゲインとインカムゲインの双方を取得する方向でインセンティブを与えやすいのではないか、①と②の事情から、公開買付け後の前田道路とその一般株主の利益を害するのではないか、という批判もありうるところである。

これに対して、仮に前田建設工業による公開買付けの決済開始後を基準日として特別配当を行った場合はどうか。公開買付けが成立すれば公開買付けに応募した株主に代わって、特別配当の大半は親会社となる前田建設工業が享受できることとなる。これでは前田建設工業が大半を受領してしまうことになり、より子会社化へのインセンティブを高めてしまうので、前田建設工業に対する買収防衛策としては意味をなさない。その意味では、前田道路としては、公開買付けの決済開始前を特別配当の基準日にせざるを得なかったところであろうと思われる。

なお、特別配当の基準日は決済開始後を予定していたところ、前田建設工業は2月27日付で公開買付期間を3月12日まで延長しているので、基準日が変更される可能性がある。

特別配当は買収防衛策としての効果はあるのか

前田道路のプレスリリースによれば、前田建設工業から、前田道路の内部留保を前田建設グループ内で活用したい旨の働きかけを受けていたとのことである。もし前田道路の指摘する通りに、前田建設工業による公開買付けが前田道路の巨額の内部留保の活用を主要な狙いとしているのであれば、特別配当が実施されれば、前田建設工業は公開買付けを撤回するだろう。

これに対して、もし前田建設工業が前田道路の内部留保ではなく、プレスリリース等で主張する「総合インフラサービス企業グループへの転換」といったシナジーを主に狙っているのだとすれば、特別配当により巨額の現金流出が行われたとしても、そのシナジーは必ずしも失われるとは限らない。

その結果、前田建設工業は公開買付けを撤回しない可能性があり、その場合には、特別配当では前田建設工業にとって買収防衛策としての意味をなさなかったことになる。

親会社は上場子会社の内部留保を活用できるのか

そもそも、前田建設工業にとって前田道路の巨額の内部留保が魅力だったとしても、前田建設工業はその公開買付けの株式買付数について前田道路の上場を維持する取得割合51%を上限としているから、内部留保を思うように活用できないのではないか。

前田道路のプレスリリースによれば、前田建設工業は前田道路に宛てた提案書において「前田道路の利益剰余金等の内部留保および現預金等を配当金によって単に外部に流出させるのではなく、前田建設グループ全体の成長に向けた投資に充てるような成長戦略を立案し、外部に積極的に公表することを提案」したとのことであるが、このことが内部留保の前田建設工業グループへの支出を意味するのだとすると、親会社による上場子会社財産の収奪であって、前田道路の一般株主との間で深刻な利益相反が生じる。

このような内部留保の支出を前田道路の取締役が是認するとすれば、前田建設工業派遣の取締役を含め、取締役の善管注意義務違反を構成し、前田道路の株主から株主代表訴訟が提訴されれば敗訴する可能性が高まることになることになる。

このことから、前田建設工業は、上場を維持する公開買付けでは、前田道路の内部留保を活用することは法的に困難なのではないか。前田建設工業が、前田道路が主張するような内部留保の前田建設工業グループへの活用を企図しているのであれば、善管注意義務違反の問題が生じないように、少数株主をスクイーズアウトして、前田道路を100%子会社化せざるを得ないのではないか。もっとも、前田道路の方が前田建設工業よりも時価総額が高いことからすれば、前田建設工業にとって前田道路の100%子会社化は相当多額な買収コストがかかり、実施は困難だったのではないかと想像する。

前田道路における公正性担保措置のあり方

前田道路は、プレスリリースにおいて、

「当社の役員構成は、取締役 10 名のうち独立社外役員である社外取締役が4名、監査役5名のうち独立社外役員である社外監査役が3名となっており、合計7名の独立社外役員がそれぞれ独立した立場で当社の意思決定のチェックを行っております。2020年2月20日開催の取締役会における特別配当付議決定については、7名の独立社外役員のうち6名は、いずれも本特別配当付議決定に賛成する旨の意見を述べております」

としており、特別配当実施にあたり、特別委員会の組成及び諮問までは行っていない。

たしかに、特別配当の実施は、差別的行使条件付新株予約権の無償割当てのような典型的な買収防衛策そのものではないので、法令又は東証ルール上、特別委員会まで求められているわけではない。

後述のように特別配当実施の是非は株主総会における議案の賛否を通じて、株主意思を確認して行うものであるから、重ねて特別委員会までは不要とも言える。また、公開買付けのスケジュールから、特別配当実施の意思決定まで、特別委員会の組成・諮問まで行うことは、時間的制約上、困難であった可能性もある。

しかし、このような敵対的買収の局面では経営陣の保身が疑われやすいし、また、特別配当により多額の現金流出は会社の財産状態に大きな影響も与える。そこでベストプラクティスとしては、独立社外役員の賛成意見にとどまらず、特別委員会を組成した上で、同委員会に対して、特別配当の実施が前田道路及びその少数株主の利益を害するものではないか、などの問題点について答申を求めることが望ましかったのではなかろうか。

特別委員会というかたちで独立社外役員を中心とする委員の間で十分な議論を行い、諮問に対して十分な説明が行われた答申内容を一般株主に開示することが、株主への情報提供を通じた一般株主保護に資するように思われる。