本シリーズでは、M&Aの主幹部門が、ディールの効率・確度を上げるために、法務・知財部門とどのように協力すればよいのかをわかりやすく解説する。今回は、法務部門との規制まわりの対応の協力がディールの実効性を上げるのに寄与することについて述べる。

輸出管理規制でディールを断念する場合も

米中貿易摩擦の影響は、M&Aにも影響している。買収対象企業の製品にかかる関税が高くなると売上や利益に影響し、企業価値が変わってくるし、輸出管理規制によっても影響してくる。米国の輸出管理規制は第三国を経由する再輸出を禁止していて、米国が規制対象としている米国の技術を一部であっても利用した製品は、日本や米国以外の地域で生産しても、中国やその他、米国が技術の輸出を禁止している国に輸出することができない。

そもそも、海外企業の買収において、輸出管理規制により日本や米国政府などから輸出が禁じられている技術を用いてPMI(Post Merger Integration、統合プロセス)で技術支援などの交流が必要な場合、ディールを断念することもあり得るので、影響は大きい。

この他にも、海外企業を買収する場合には、外資規制を確認することになる。海外の政府は外資の導入を歓迎する一方、国内産業・企業を保護する立場であるため、業種により外資が資本参加できなかったり、外資の資本割合を50%未満とするものがあったり、許認可が必要だったりするので、結局、想定していたディールができない可能性もある。

カルテル規制への手当てを忘れるな

M&Aは独占禁止法規制とも絡むことがある。同業の企業との取引の場合に独占禁止法に対する手当てを怠り、法令違反に問われることがある。デューデリジェンス(DD、資産査定)のため対象企業から情報開示されるが、不用意に競合企業どうしで競争機微情報(顧客リスト、価格表、コストに関する情報、直近業績、将来の予測など)を取り交わすと、独占禁止法のカルテル規制違反となってしまう可能性がある。

特に米国で有罪となった場合、法人に対する多額の罰金が課される他、事案に関わった担当者を刑務所に収監する可能性があるので、その影響は計り知れない。司法当局との交渉で、収監する刑務所を選ぶことはできるそうであるが・・・。

このカルテル規制に違反しないためには、M&A取引における競合企業どうしで情報交換する場合、①DDや買収後の事業計画に必要な情報を、②M&Aのプロジェクトに携わり情報管理が行われているクリーンチームのメンバー内でのみ共有し、③詳細な価格の情報などはマスキングをしたり、合計の数値にまるめるなどの手当てをすることになる。

このカルテル規制の対応の他、独占禁止法の企業結合規制に基づく届出が必要になる可能性があり、審査は短くて1カ月、長いと中国などで1年くらいかかってしまうケースもある。当局から承認が下りる場合でも、条件つきとなることがある。市場における競争環境に影響が大きいと判断された場合、一部の事業を他社に売却する指示を受けることがあり、更に一仕事待っているかもしれない。