はじめに

2020年7月10日、株式会社大戸屋ホールディングス(以下「大戸屋HD」という。)の筆頭株主である株式会社コロワイド(以下「コロワイド」という。)は、大戸屋HDの普通株式に対する公開買付け(以下「本公開買付け」という。)を開始し、9月8日、本公開買付けが成立した。わが国では極めて珍しい敵対的公開買付けの成立となる。本稿では、本公開買付けの経緯についてまとめるとともに、最後に法務の観点から印象的だった点についてコメントを試みたい。

本公開買付けでは買付予定数の上限(コロワイドの既存保有分を加味した所有割合にして、51.32%)が設定されており、コロワイドは大戸屋HDを実質基準で連結子会社化しつつ、本公開買付け実施後も大戸屋HDの上場を維持させることとしている。

これまでの経緯

本公開買付けに先立つ6月25日の大戸屋HD定時株主総会において、コロワイドは、大戸屋HDの連結子会社化を前提としてコロワイドが指名する取締役候補者の選任に係る株主提案(以下「本株主提案」という。)を行っている。本株主提案が否決されたため本公開買付けが開始されたものであるが、各社のプレスリリースその他の公開情報によると本公開買付け成立に至る経緯は以下のとおりである。

●大戸屋HDとコロワイドのイベント

時期大戸屋HDコロワイド
2019.10.1   大戸屋HD創業者の親族である三森三枝子氏及び三枝智仁氏からの大戸屋HD株式の取得(1,351,800株、所有割合18.66%)
2019.10.4~同年11.13   大戸屋HD株式の断続的取得(36,100株、所有割合0.50%)
2019.10.25   コロワイドグループと大戸屋HDグループの協業方策の提案
2019.11.14 2020年3月期第2四半期に係る業績の説明  
2019.11.21 経営改善計画案の説明  
2019.11月下旬~2020.3月中旬   友好的M&Aの打診
2019.12.17   大戸屋HDから受領した協業方策に関する質問に対する回答
2019.12.27 大戸屋HD及びコロワイドの代表取締役による面談→友好的M&Aの受入れ拒否 大戸屋HD及びコロワイドの代表取締役による面談→友好的M&Aの打診、これを受け入れられない場合における株主提案の予告
2020.1.31 経営改善計画の説明  
2020.2.20 大戸屋HD執行部によるコロワイドに対する質疑応答  
2020.3.23   大戸屋HD株主に対する、大戸屋HDのコロワイドグループ入りに関する意見聴取
2020.4.14   本株主提案に係る取締役会決議
2020.4.15   本株主提案
(議案)
取締役12名選任の件
(議案の要領)
以下の取締役候補者12名一括して、大戸屋HDの取締役に選任すること
・現コロワイド役員の取締役候補者2名
・現大戸屋HD役員の取締役候補者2名
・社外取締役候補者(非業務執行取締役を含む)8名)
2020.5.25 本株主提案に対する反対の意見表明、中期経営計画の策定  
2020.6.5 従業員有志及び80%以上のフランチャイズ加盟店による、本株主提案に対する反対の意見表明  
2020.6.25 定時株主総会における本株主提案の否決  
2020.7.9   大戸屋HD株式の本公開買付けに係る取締役会決議
2020.7.10   公開買付届出書の提出(公開買付け期間開始)
2020.7.17 従業員有志による本公開買付けに対する反対の意見表明  
2020.7.20 本公開買付けに対する反対の意見表明  
2020.7.27   大戸屋HD独立社外取締役に対してその職責を果たしていないのではないかという懸念を表明する書状送付
2020.8.5 コロワイドによる独立社外取締役宛書面への反論  
2020.8.14 オイシックス・ラ・大地との「おうち大戸屋サブスクリプション事業(仮)」を内容とする業務提携を公表  
2020.8.25   公開買付け条件の変更(公開買付期間の延長、買付予定株式数の下限の変更)
2020.9.8 本公開買付け成立 株主提案
(議案)
取締役11名解任の件
取締役7名選任の件

コロワイドによる大戸屋HD子会社化の説明

コロワイドは、大戸屋HDの連結子会社化の理由として、「対象者の業績回復を早期に実現し、かつ公開買付者と対象者の協業の成果を対象者の事業再建に優先的に配分することの公開買付者における合理性を担保するためには、対象者における収益改善が公開買付者の連結会計上の収益向上に寄与するとの観点より、公開買付者による対象者の連結子会社化が必要である」としている。

一方で、完全子会社化せずに上場を維持する理由として、「対象者グループにおけるお客様・取引先からの信用維持、対象者グループの社員の皆様のモチベーションの維持・向上といった観点に加え、近年の対象者における業績不振の要因として、株主との対話も含めたコーポレート・ガバナンス体制の不備が考えられるところ、上場企業に止まることにより、一般株主の皆様及び市場からの適切な監視・牽制を受けることが、対象者自体の企業価値向上に資すると見込まれること、並びに公開買付者は本公開買付け後も対象者株式の上場を維持し、対象者が上場企業としての独立性を確保することを前提に、両社が少数株主の利益にも配慮した適切な関係を構築することが望ましいと考えていること」としている。

また、コロワイドは、本公開買付け実施後の経営の合理化方針(協業の方策)として、
①仕入れ条件の統一によるコスト削減
②コロワイドグループのセントラルキッチンの活用
③物流網の共通化によるコスト低減
④新店立地・業態転換候補の共有化
⑤ノウハウの共有
を掲げている。

大戸屋HDによる反対意見表明

コロワイドによる本公開買付けに対して、大戸屋HDは大要以下の点を理由として反対の意見表明を行った。

①本株主提案の否決後直ちに本公開買付けを開始することは、定時株主総会において示された大戸屋HD株主の意思に反すること。
②本公開買付けは、買付予定数の上限が定められた部分買付けであり、コロワイドの大戸屋HDへの経営への関与により、大戸屋HDの企業価値ないし株主共同の利益が毀損されるリスクを株主に負わせる強圧的なものであること。
③大戸屋HDは2020年5月25日付で2023年3月期を最終計画年度とする中期経営計画を策定しており、現経営陣が当該中期経営計画を推進していくことが、大戸屋HDの企業価値及び株主共同の利益の向上の観点から最良の選択肢であること。
④コロワイドが実行予定の経営上の合理化施策は大戸屋HDの企業価値・ブランド価値を毀損するおそれが高く、また、本公開買付けが成立しコロワイドが大戸屋HDの実質的な支配権を取得した場合、大戸屋HDの企業価値の源泉である従業員の離職や労働意欲の著しい低下、フランチャイズ店の離脱が起こり、大戸屋HDの企業価値・ブランド価値が更に毀損されるおそれが高いこと。
⑤本公開買付けが成立した場合、経営の継続性が担保できず、大戸屋HDの経営に著しい混乱が生じるほか、コーポレート・ガバナンス上の問題が生じるおそれが高いこと。
⑥コロワイドの過去のM&A実績や足元の財務状況に照らすと、大戸屋HDがコロワイドにより連結子会社化された場合には、大戸屋HDの経営のリスクが高まると考えられること。

本公開買付期間の延長及び下限の変更

2020年8月25日、コロワイドは、本公開買付けを確実に成立させることが極めて重要であるとして、公開買付け条件を変更することを公表した。具体的には、公開買付け期間を8月25日から9月8日に延長し、買付予定株式数の下限を1,872,392株から1,510,138株(コロワイドの既存保有分を加味した所有割合にして、45%から40%)に変更するとの内容であった。

本公開買付けの成立と現経営陣の解任

2020年9月8日、本公開買付けが成立し、コロワイドは本公開買付けを通じて大戸屋HD株式を新たに2,000,371株取得し、議決権割合にして46.77%を取得することとなった。そして、コロワイドは、9月9日付で大戸屋HDに対して臨時株主総会招集請求を行い、同社の現在の取締役11名全員の解任及びコロワイドが指名する取締役候補者7名の選任を試みている。これに対して大戸屋HDは現時点では意見を表明していない。

本公開買付けに関する若干のコメント

公開買付け後の少数株主対応

本公開買付けは買付数に上限を設け、上場維持を前提としたものであるところ、コロワイドは敵対的買収により、少数株主が多く存在する上場子会社の親会社として安定した経営ができるのかが注目される。大戸屋のファン株主による敵対的買収への反発もあり、コロワイドは公開買付期間延長に至ったという報道もあったし、かつ、反対声明を行った従業員も含まれるであろう従業員持株会もなお上位株主として残っているはずであるためである。もっとも、大戸屋HDの大株主とされている従業員持株会の持株比率も1.05%と大きくはないため、コロワイドを支持していない少数株主による影響は限定的という見方もありうるところだろう。

公開買付け後のステークホルダー対応

今後の株主対応以上に懸念されるのが、本公開買付けに反対の意見表明をした大戸屋HD従業員及びフランチャイズ加盟店への対応だろう。大戸屋HDにとって店舗運営を担う従業員とフランチャイズ加盟店は最も重要なステークホルダーと言える。臨時株主総会で経営陣を総入れ替えすることにより、コロワイドの大戸屋HDに対する影響力を強化したとしても、従業員とフランチャイズ加盟店の支持がどこまで得られるかが注目される。

オイシックス・ラ・大地との業務提携の行方

本公開買付けでは大戸屋HDにいわゆるホワイトナイトは現れず(直前株価の約45%もの高いプレミアムも影響したものと思われる)、公開買付期間中にオイシックス・ラ・大地との業務提携を公表したにとどまった。この業務提携はオイシックス・ラ・大地の食材提供を内容としており、コロワイドがシナジーとして掲げた仕入れ条件の統一化とセントラルキッチン活用への対抗策として行われたものと思われる。そのため、本公開買付後はコロワイドによる親会社としての支配とオイシックス・ラ・大地との提携は両立しえないようにも思われ、今後の同社との提携について、解消の可能性も含めた行方が注目される。

「強圧的」な公開買付けとは何か

大戸屋HDは「買付予定数に上限を設け、応募株主全員に売却の機会が保証されていないにもかかわらず、コロワイドグループの利益を優先した経営により大戸屋HDの企業価値・ブランド価値毀損のリスクに晒されることになり、このようなリスクを回避するために本公開買付けへの応募を余儀なくされている」という点を理由として本公開買付けを「強圧的」であるとしている。

しかし、この大戸屋HDの「強圧性」に対する考え方は、公開買付けにおいて一般に認識されている「強圧的」と比較するとかなり広く捉えているように思われる。経済産業省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」において、「強圧的二段階買収(最初の買付で全株式の買付を勧誘することなく、二段階目の買付条件を不利に設定し、あるいは明確にしないで、公開買付け等の株式買付を行うことをいう)など株主に株式の売却を事実上強要するおそれがある買収」とあるように、また、コロワイドが反論で触れている「公開買付者において明確な経営方針を示さないなど、対象者の経営への関与の態様が全く不明瞭な場合」など、「強圧的」とは当該公開買付けの「構造上」、株主に株式の売却を事実上強要する場合を意味すると理解されてきたように思う。

これに対して、大戸屋HDが「強圧的」の根拠とする「コロワイドグループの利益を優先した経営」はあくまでも同社の見解であって自明のものとは言えず、コロワイドグループによる利益を優先した経営を行うかどうかは、本来、発行会社の株主が開示資料を検討した上で判断するべきものである。よって、コロワイドによる公開買付け後の経営方針が企業価値を毀損するという批判はありうるとしても、本公開買付け自体が強圧的であるとは必ずしも言えないように思われる。

特別委員会を設置しなかったことについて

コロワイドが7月27日付書状で批判したように、大戸屋HDは、独立社外取締役で構成される特別委員会を設置して、特別委員会での本公開買付に対する意見表明に関する独自の検討を行っていない。これに対して大戸屋HDは、8月5日付開示において、(特別委員会は設置していなくても)独立社外取締役のみでの独自の検討を行っており、経営陣の主張を漫然と追認したものではないと反論している。

しかし、このような敵対的買収の場面では、構造上、経営陣の保身による会社との利益相反のリスクが高く、そのために独立委員会の設置や独立社外取締役のみによる独自の検証についての開示が実務上行われている。

「李下に冠を正さず」という姿勢をもってこのような従前の実務を尊重して、独立社外取締役を中心とする特別委員会を設置して批判的に審議させ、その検討結果を開示するという方法をとることも、本公開買付けに対する意見形成の透明性を確保し、もって一般株主からの理解と信頼を得るための方策としてあり得たように思われる。

文:柴田 堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)
大薮 万純(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)