はじめに

2019年6月21日に乾汽船株式会社(以下「乾汽船」という。)の第99回定時株主総会においてその筆頭株主であるアルファレオホールディングス合同会社(以下「アルファレオ」という。)に対抗する趣旨と目される買収防衛策(事前警告型ライツプラン)(以下「本買収防衛策」という。)が導入されて以来、両社の間では複数の訴訟提起・株主提案・臨時株主総会招集といった攻防がなされている。乾汽船及びアルファレオにより過去に公表されたプレスリリースは多岐にわたり、一見して何が起きているのかわかりにくい状況となっている。

そこで本稿では、プレスリリースで公表された情報の範囲で、本件の長期化・複雑化した経過を整理するとともに、法務の観点から特に重要と思われる論点に対して若干のコメントを試みたい。 

事実関係の整理

過去に公表された乾汽船のプレスリリースによると、本件における本買収防衛策導入以降の経緯としては大要以下の通りである(2020年7月10日現在)。

買収防衛策導入以降の経緯

日付乾汽船側(総会開催結果等含む)アルファレオ側
2019.05.14 本買収防衛策を株主総会に付議することにつき取締役会で承認
2019.06.21 本買収防衛策が第99回定時株主総会で承認
2019.09.06   アルファレオによる臨時株主総会(以下「臨時株主総会A」という。)招集請求
①取締役の報酬総額の引下げ
②特別配当
③乾康之取締役の解任
④自己株式の取得
⑤本買収防衛策の廃止
2019.09.06   アルファレオによる第99回定時株主総会決議取消訴訟の提起
2019.10.07 取締役会にてアルファレオによる提案議案⑤(本買収防衛策の廃止)は適法性に疑義がある(後述)として臨時株主総会Aに付議しないことを決定
2019.10.11   アルファレオによる提案議案⑤(本買収防衛策の廃止)を議案とする臨時株主総会(以下「臨時株主総会B」という。)招集許可申立て
2019.11.04 乾汽船により開催された臨時株主総会Aにて①②③④いずれも否決
2019.12.03
アルファレオによる乾康之取締役の解任請求訴訟の提起
→アルファレオによる提案議案⑤(本買収防衛策の廃止)を付議しなかったこと等を理由とするもの
2020.03.06
アルファレオによる提案議案⑤(本買収防衛策の廃止)を議案とする臨時株主総会B招集許可決定
2020.04.24乾汽船監査役による臨時株主総会B開催禁止の仮処分申立
申立の理由: 「アルファレオにより総会招集・運営がなされる場合、乾汽船による委任状勧誘により取得した委任状については無効であり、当該委任状に係る議決権を出席議決権に算入しないとの取扱いを行う蓋然性が極めて高い」

2020.04.28
臨時株主総会B開催禁止の仮処分申立につき、①アルファレオは乾汽船が選定する株主の入場を認め、議決権を行使することを認める、②アルファレオは当該株主が持参した委任状に基づく議決権行使を有効な権利行使として扱うこと等を条件に和解
2020.05.07臨時株主総会Bにて議案⑤(本買収防衛策の廃止)を否決(賛成割合47.60%)
2020.05.08
アルファレオによる「2020年5月7日開催の乾汽船株式会社臨時株主総会までの経緯をまとめた動画」の公開
2020.05.15
アルファレオによる第100回定時株主総会における株主提案
①定款一部変更(クローバック条項の採用)
②監査役3名の解任
③政策保有株式の売却に係る定款変更
④第三者割当増資の制限に関する定款変更
2020.05.27アルファレオに対する情報提供要請を行うことを総会議案に追加することに関する取締役会決議(後述)
2020.06.04第100回定時株主総会の招集
①剰余金配当の件
②取締役5名選任の件
③当社取締役会によるアルファレオに対する情報提供要請に関する承認の件

2020.06.05
アルファレオによる取締役違法行為差止の仮処分命令の申立
申立の理由:「情報提供要請は法令違反に該当するため、(i)当該要請、(ii)当該要請を総会議案に追加すること、及び(iii)情報提供の不十分性を理由に差別的行使条件付の新株予約権の無償割当を行ってはならない」
2020.06.19第100回定時株主総会にて会社提案議案(アルファレオに対する情報提供要請に係る議案を含む。)が全て可決され、アルファレオによる株主提案議案は全て否決
2020.06.16
取締役違法行為差止の仮処分命令の申立が却下
2020.06.17
同却下決定に対してアルファレオが即時抗告
2020.06.18
同即時抗告が棄却

本買収防衛策の概要と評価

乾汽船は、2019年6月21日に開催された定時株主総会にて、本買収防衛策を導入している。本買収防衛策の内容としては、実務上一般に採用されている事前警告型ライツプランの内容と同様といえるが、大規模買付者が本買収防衛策に定める手続きを遵守しない場合も含め、いかなる場合であっても対抗措置の発動は取締役会限りで行うことはできず、株主総会の承認を要するとしている点でやや特徴がある(詳細について乾汽船プレスリリース(2019年5月14日付「当社株式の大規模買付行為等への対応策(買収防衛策)の導入について」)を参照)。

本買収防衛策廃止の議案を株主総会において取り上げなかったこと

本買収防衛策については2019年6月21日に第99回定時株主総会で承認された後、同年9月6日にアルファレオによりその廃止を議案とする臨時株主総会Aが招集請求されたが、乾汽船は当該議案を臨時株主総会Aにおける議案として取り上げなかった。かかる取り扱いについて、乾汽船は「適法性に疑義がある」ことを理由とするにとどまり、その法的な根拠は明らかにしていないが、同社定款では買収防衛策の導入は株主総会決議によらなければならないのに対して、取締役会決議で廃止できるとしており、かかる定款を根拠としたものと思われる。

また、このような定款上の根拠に加えて、買収防衛策の廃止に係る株主提案の適法性については、レノによる株式会社ヨロズへの株主提案に関する東京高裁決定令和元年5月27日資料版/商事法務424号120頁が存在する。同決定においては、大要、(i)株主提案の対象は株主総会の権限の範囲に属する事項に限られること、(ii)買収防衛策の廃止はそれ自体会社法上株主総会の権限の範囲に属するとはいえないため、定款上その廃止が株主総会の権限の範囲に属するとされていることが必要であることを示した上で、(iii)当該事案においては定款の解釈上、買収防衛策の廃止は株主総会の権限の範囲に属しないため、株主提案は不適法である旨述べている。乾汽船が本買収防衛策廃止議案の適法性に疑義があるとして付議しなかった背景には、かかる裁判所判断に依拠した可能性がある。

もっとも、その後アルファレオによりなされた、本買収防衛策廃止議案を目的とする臨時株主総会B招集許可申立に対し、東京地裁は許可決定を出しており、(乾汽船監査役による開催禁止の仮処分申立及びその後の和解という経緯はあったものの)結果として臨時株主総会Bが開催されている。そのため、少なくとも臨時株主総会招集との関係では、株主提案による買収防衛策廃止の可否という論点は決着した可能性もあるが、東京地裁の許可決定の内容が明らかになっていないため、この点について明示的に判断しているかは不明である。

アルファレオは、本買収防衛策廃止議案を付議しなかったことの違法性等を理由に、乾康之取締役の解任請求訴訟を提起しているため、上記の論点については当事者間で引き続き係争中である。

アルファレオのHP上で公開されている訴状によれば、アルファレオは、具体的な同取締役の解任事由として、①金融商品取引法に基づく有価証券報告書及び確認書への虚偽記載、②会社法上の注意義務・忠実義務違反、③被告会社の定款違反、④会社法上の招集義務違反、⑤意図的に本買収防衛策の廃止の議案を審議、決議するための株主総会の招集を妨げたことが「不正の行為」に該当することを掲げている。

またアルファレオは、本買収防衛策廃止議案を付議しなかったこととの関わりでは、(i)少数株主の総会招集請求に係る目的事項すべてを議案とした株主総会を招集すべき義務(全議案招集義務)に違反している、(ii)乾汽船定款の取締役会決議に基づいて買収防衛策を廃止できる旨の規定は、株主総会決議でも買収防衛策を廃止できることを前提に、取締役会でも廃止できることを規定したものに過ぎないので、株主総会で廃止議案を取り上げなかったことは重大な法令違反であると主張している。当該訴訟のその後の進捗状況については、現時点では訴状が公開されている他に公開されている情報は見当たらない。

アルファレオに対する情報提供要請

乾汽船は、同社及び同社子会社の従業員らからの要請を受け、2020年5月27日付取締役会において、アルファレオに対する情報提供要請(以下「本情報提供要請」という。)を行うことについて株主総会の承認を求めるため、本情報提供要請承認に係る議案を株主総会に付議する旨の決定を行い、その後定時株主総会において当該議案が承認されている。

本情報提供要請の内容としては、アルファレオの概要(実質的な資金提供者及び意思決定者を含む)、乾汽船株式保有の目的、今後の保有・売却の方針、今後予定している追加取得の内容、乾汽船の経営方針、事業計画、経営者候補等としている。これらは、本買収防衛策で大規模買付者に求めることができる情報提供要請の内容とほぼ同様である。

一般に買収防衛策の事前手続の一環としての情報提供要請は、取締役会限りで行うのが一般的であり、本買収防衛策においても特に株主総会決議事項とはされていない。そのため、本件においてあえて株主総会に付議したことは特徴的な点として挙げられる。

乾汽船のプレスリリースにおいても、本情報提供要請を株主総会に付議したことについて(i)特定の株主に対する情報提供要請であること、(ii)アルファレオとの対話の方針等が乾汽船の経営・事業運営等に重大な影響を与えうること等を理由としているが、アルファレオの持株比率が高まってきており(2020年5月15日付提出の大量保有報告変更報告書によれば29.15%)否決のリスクもあった中であえて株主総会に付議した理由は明らかではない。

また、乾汽船のプレスリリースでは、今般の情報提供要請が本買収防衛策に基づく事前手続としての情報提供要請であるか否かについて一切触れていない。推測の域を出ないが、本買収防衛策では、株券等保有割合30%以上の買付けを「大規模買付行為」とし、この大規模買付行為を行おうとする者(大規模買付者)に対して情報提供要請ができるとしていることから、乾汽船は、持株比率30%に至っておらず、また、それ以上の買付けについて方針を明らかにしていないアルファレオを本買収防衛策上の「大規模買付者」とみなす確信が持てなかったため、あえて本情報提供要請を本買収防衛策に基づくものと位置づけず、かつ、本情報提供要請の有効性を獲得するため、本来不要なはずの株主総会で承認議案を付議した可能性がある。

本情報提供要請に対するアルファレオの仮処分命令申立

これに対し、アルファレオは当該要請自体や当該要請に従わなかったことを理由とする対抗措置(差別的行使条件付新株予約権の無償割当て)の発動等について、2020年6月5日付けで取締役の違法行為差止仮処分命令の申立を行っている。このアルファレオによる申立は、「本情報提供要請で要請される情報は、買収防衛策が発動された際に要請される情報とほぼ一致しており、第3号議案は、実質的には『買収防衛策発動の要件を満たさない者に対する買収防衛策発動』であると考えます。当社の株券等保有割合は約29%であり、「大規模買付者」に該当しないため、買収防衛策の発動の要件を欠いています」といった点等を理由としている。

もっとも、同申立は同月16日付で却下され、同却下決定に対するアルファレオによる即時抗告も同月18日付で棄却されている。

今後について

本買収防衛策によれば、アルファレオが情報提供要請に従わなかった場合、「大規模買付者等が本買収防衛策に定める手続を遵守しない場合」に該当し、乾汽船は対抗措置の発動が可能となる。そこで、アルファレオが本情報提供要請に従わない場合、乾汽船はこれを理由に対抗措置を発動することについて株主総会の承認を求める可能性がある。

もっとも、前述のように乾汽船は本情報提供要請を本買収防衛策の手続の一環とは位置づけていないし、また、アルファレオHP(「乾汽船の取締役の違法行為差止め仮処分申立てに関する高裁決定(東証第一部証券コード:9308)」)によると「東京地裁の決定によれば…情報提供要請が買収防衛策の発動ではないこと…が認められました」旨の説明がなされている。そのため、アルファレオが本情報提供要請に従わなかったとしても、本買収防衛策上、乾汽船は本買収防衛策に則り対抗措置の発動を株主総会に付議できるか否かは明らかではない。

2020年6月18日付乾汽船プレスリリース(「支配株主等に関する事項について」)によれば、アルファレオの議決権所有割合は2020年6月18日時点で大規模買付行為の基準を超える30.55%に至っており、また、2020年6月19日開催の第100回定時株主総会において乾康之取締役の再任議案への賛成割合が61.60%にとどまる等、乾汽船株主総会におけるアルファレオの影響力が大きくなっていることを踏まえると、乾汽船は今後対抗措置の発動を検討しているであろうと思われる。

今後の大きな動きとしては、アルファレオが本情報提供要請に従うか否か、従わなかった場合に乾汽船が対抗措置発動の承認を株主総会に求めるかどうかなどが予測され、その動向について引き続き注視したい。

文:柴田 堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)
松居 駿介(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)