チムニーの戻りが遅いのは、コロナ前の売上が宴会に依存していたことと、新たな収益柱としてインバウンドに注力していたためです。はなの舞は駅前などの繁華街ビルの空中階と呼ばれる2階以上、または地下に出店する形態をとっていました。通行人の目にとまりにくいため、ふらりと来店する客は獲得しづらい店舗です。しかし、Webなどを活用すれば大宴会(高単価の顧客)が獲得できたのです。
また、両国にある居酒屋の店内には土俵があり、これをフックとしたインバウンド需要が盛り上がっていました。
ところが、コロナによって大型宴会、インバウンドの両方が蒸発してしまったのです。チムニーは2020年12月の売上が前年比26.5%となり、いかに忘年会に依存していたかがわかります。Go To Eatで盛り上がっていた10月、11月も他社と比べて低水準にとどまっています。
■居酒屋企業月次売上前年比推移(単位:%)
月次売上 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
チムニー | 9.3 | 9.6 | 26.2 | 34.9 | 28.0 | 38.9 | 51.7 | 44.1 | 26.5 |
ワタミ | 8.1 | 9.2 | 34.0 | 48.2 | 36.8 | 51.4 | 65.6 | 60.1 | 41.4 |
鳥貴族 | 3.8 | 12.1 | 70.8 | 74.4 | 56.9 | 74.1 | 90.2 | 78.3 | 50.0 |
串カツ田中 | 39.4 | 60.0 | 71.9 | 75.3 | 62.5 | 77.1 | 81.2 | 84.1 | 62.7 |
※月次報告書より筆者作成
チムニーはワタミや鳥貴族にない爆弾を抱えています。47億9,500万円ののれんです。
チムニーは食肉加工の米久<2290>の子会社でしたが、2010年に米投資ファンド「カーライル・グループ」が支援するMBOを実施しました。その際に多額ののれんを積んだのです。2011年12月末時点で総資産の26.4%となる83億7,400万円がのれんでした。現在も総資産の20%がのれんで、対純資産でみると45%と高い比率を占めています。店舗の収益性の悪化、それに伴うのれんの減損、貸借対照表に生じる著しい毀損。この流れを何としてでも止めなければなりません。最悪の場合、数十億円の巨額損失を計上することになってしまいます。
チムニーはここに弱点があります。退店を行った後は速やかに業態転換、出店を行って全体の収益性を回復させる必要があります。採算性が悪化した店舗をいつまでも残すわけにはいきません。自己資本で吸収できるうちに退店し、業態転換や出店によって業績回復を図らなければならないのです。
チムニーの純資産は2020年9月末時点で106億8,600万円。自己資本比率は42.3%です。自己資本の厚みがあり、幸いにも大量退店、そしてこれからの出店に耐えられる体力がまだあります。のれんの存在で一段と苦戦を強いられたチムニーが、コロナ禍でどのような反転攻勢に出るのか注目が集まっています。
文:麦とホップ@ビールを飲む理由