【M&A戦略】新興国はダイハツに任せる!

 トヨタ自動車の直近の大型M&Aといえば、下表のように、2016年1月のダイハツ工業<7262>の完全子会社化が挙げられる。もともとトヨタ自動車はダイハツ工業の株式の過半数を保有していた。この大型M&Aは、そこからの完全子会社化である。その背景と戦略を見ていこう。

表2:トヨタ自動車の主なM&A

年月内容
1998年9月ダイハツ工業の株式公開買付けTOB)を実施、過半数の株式を取得
2001年8月 日野自動車の第三者割当増資を引受け、発行済み株式の過半数を取得
2002年4月 インドでキルロスカ・システムズとのマニュアルトランスミッション生産の合弁会社トヨタ・キルロスカ・オートパーツ設立
2008年7月 セントラル自動車を簡易株式交換により完全子会社化
2016年1月 ダイハツ工業を株式交換により完全子会社化

M&A Online編集部作成

7割超を海外で稼ぐ、トヨタのグローバル戦略

 トヨタ自動車とダイハツ工業の歴史は1967年に業務提携したことに始まる。約30年を経て1998年9月にトヨタ自動車がダイハツ工業の株式の過半数を株式公開買付けTOB)により取得し、トヨタ自動車の傘下となる。2016年1月、株式交換により完全子会社化した。買収額は約3,700億円となり、2016年で10指に入る大型M&A案件だった。

 では、なぜ、過半数を保有し子会社であったダイハツ工業を完全子会社化したのだろうか。

 その背景として、トヨタ自動車の海外売上高の比率を指摘しておきたい。下図のように、2016年の連結売上高に占める海外売上高の割合は77.9%と非常に高く、15年前の2001年度の57.1%より20ポイント近くも増えている。これはトヨタ自動車の主要市場が国内ではなく、海外に移っていることを示している。

図2:トヨタ自動車のセグメント別売上高推移

M&A Online編集部作成

図3:トヨタ自動車の海外売上高割合の推移

M&AOnline編集部作成

先進国の伸びが鈍化、新興国市場へ注力する

 過去5年間の地域別売上高を見ると、特に北米地域の伸びが大きいが、注目すべきはアジア及びその他地域である。「アジア及びその他地域」の伸びについて約15年前と比較してみると(下図)、連結売上高に占めるアジア及びその他地域の割合は2倍近く拡大している。

 主力市場である北米に力を置くのは当然としても、北米・欧州以外の新興国市場に目を向けていることがうかがえる。

大型M&Aを実施した背景とは

 自動車業界の環境要因も見てみよう。近年、自動車業界では世界的な環境車の普及や安全性の向上、ダウンサイジングトレンド(小型化)等、市場が求める環境が大きく変化している。加えて自動車部品・関連商品・関連サービスも含めると、異業種からの参入もますます増えていくだろう。新興国市場において比較的高いシェアを誇る日系自動車メーカーも、規模による優位性だけでは厳しい状況に置かれることが予想される。

 つまりトヨタ自動車は、この成長する新興国市場における競争激化に対応するために、ダイハツ工業への出資比率を100%へ引き上げ、「新興国に関してはダイハツ工業に任せる」という体制を整えたのである。

 この背景として、トヨタ自動車が2016年4月に導入したカンパニー制を挙げておこう。トヨタ自動車のカンパニー制は「コンパクトカー(小型車)」「ミッドサイズヴィークル(乗用車)」「CV(商用車)」「レクサス(高級車)」など車の製品群ごとの計7カンパニーに分けている。そのうち、コンパクトカー・カンパニーが手掛ける小型車の「カローラ」や「ヴィッツ」等は先進国向けであり、新興国向けの小型車を担うカンパニーは存在しなかった。そこでこの領域をダイハツ工業に担わせようとしたのである。

ダイハツ完全子会社化の成果は?

 ダイハツ工業の完全子会社化の成否に関しては、新興国市場でどれくらいのシェアを拡大できるかで判断される。具体的に見てみよう。新興国市場と言うと、今まででは中国、タイ、マレーシアなどを思い浮かべる人が多かっただろう。今日、特に自動車業界が注目しているのはインドだ。インドの人口は現在約12億人で中国に続き世界第2位であり、今後も人口増加を続けていくと予想されている。

 インドの市場としての魅力はそれだけではない。インドの生産年齢人口の比率は64%と非常に高く、老年人口の比率が小さい。そして中間層の消費者意欲が高まってきている。すなわち、今後のインド経済は大きく成長していくと思われる。

 しかし、トヨタ自動車にとってインドでのシェアを拡大させていくのは容易ではない。というのも、下図に見るようにインドはトヨタ自動車のライバルであるスズキが最も得意としている市場だからだ。

図4:メーカー別インド国内自動車販売台数

M&A Online編集部作成

 トヨタ自動車のインド市場のシェアは3.8%、対するスズキは38.4%と約10倍だ。販売台数では約100万台程度、スズキに差をつけられている。

 実はこの状況を崩すのは容易ではないと思われてきたのだが、ここ最近で事態は少し変わってきた。2017年2月6日、トヨタ自動車とスズキは業務提携を検討していることを発表したからだ。