伊藤忠商事の繊維セグメントの投資予算は

まず、11月2日公表の伊藤忠商事の決算説明資料によれば、2019年3月期通期の連結ベースの見込実質営業CF「5,000億円以上」、見込実質フリーCF「1,400億円+α」とのことですので、見込投資CFは差し引き3,600億円と考えられます。このうち、上期の投資実績は2,250億円とのことですので、下期の予算は差し引き1,350億円前後と考えられます。

次に、この連結ベースの全体予算のセグメントへの配分を予想してみます。

同日公表された決算短信のセグメント情報によれば、繊維セグメントの総資産は492,040百万円、連結総資産は10,652,810百万円とあります。

一般に、セグメントごとの投資予算はおおむね資産残高と正の相関性を有すると考えられることから、資産構成比で上記の下期投資CFを配分してみると、62億円前後が繊維セグメントの投資余力とみられるでしょう。であるとすれば、繊維セグメントの予想投資予算62億円の枠内では必要資金には遠く及ばないということになります。

全社ベースでは1,350億円あるので出せない金額ではありませんが、全社予算に対して総投資額が32%に及びます。本件がいかにCEOの肝煎り案件であるとしても、そこまでの資金を本件に一気に投入するということは考えにくいのではないでしょうか。

また、この株価水準が果たして伊藤忠にとって投資として魅力的であるかどうかという側面も考える必要があるでしょう。

10月30日公表のデサント決算短信によれば、2019年3月期の通期会社予想EPSは86.24円です。11月2日の終値に25%のプレミアムをつけるとすると取得株価は3,415円となり、今期予想の株価益回り2.5%となります。

これに対し、前述の伊藤忠の決算説明会資料によれば繊維セグメントの今期利益予想は320億円、繊維カンパニーの資産残高492,040百万円に対する益回りは約6.5%ですので、この利益水準では投資妙味に欠けるでしょう。

仮に子会社化により劇的な業績改善を行い、益回り6.5%を達成させるとすると、EPSは今期会社予想の約2.6倍に相当する221.98円に上昇する必要があります。いかに伊藤忠商事といえども、短期間にこれだけの利益成長を達成することはなかなか厳しいのではないでしょうか。

以上からすると、少なくとも合理的な検討の範囲内では、伊藤忠が敵対的TOBに打って出る可能性は当面ないものと考えられます。

ただし、本件がCEOの肝いり案件であることや、両社に確執が生じていることからすれば、合理性を超えて感情の駆り立てるままTOBに打って出る、ということもないとは言えないかもしれません。

そこで次に、「創業家がホワイトナイトを確保し、拒否権確保のためTOBを行う」シナリオについて考えてみたいと思います。