ご注意ください
この記事は公開から1年以上経っています。掲載されている情報は、公開当時のものです。

【石油業界とM&A】欧米メジャーの日本市場撤退が意味するものとは

alt
東京理科大学大学院イノベーション研究科教授 橘川武郎氏

出光興産が昭和シェルとの統合でめざすものとは

出光の海外進出 根底にあるのは「消費者本位」

昭和シェル・出光グループは、創業家の反対により合併計画が不透明となっている。創業家と経営陣の見解の相違となっているのが、出光の創業者である出光佐三の経営哲学の理解だろう。

“私自身は出光佐三の研究を長年やってきたわけだが、出光佐三が神戸高等商業学校(現神戸大学)時代に内池廉吉先生に習った考え方で「大地域小売主義」「生産者から消費者へ」「消費者本位」がある。石油ないしは石油関連製品を求めている人がいて、独占価格で苦しんでいる人がいたら、安く供給するという考え方である。その大地域小売主義こそが、出光の本質だと僕は思う。(橘川教授)”

出光商会は戦前、日本石油(のちのJX)の特約店だったことから国内の事業展開が北九州と名古屋付近の一部に限られていたため、早い時期から海外で事業展開していた。下図のとおり1942年の時点で従業員の約7割が海外におり、売上の過半も海外であげていた。

“当時の東アジア一帯はメジャーが強く、特に灯油の独占価格に人々は苦しめられていた。この苦境にリスクを背負って立ち向かったのが出光佐三だ。(橘川教授)“

表3:戦前の出光商会の海外比率

出光4社の人員構成 海外比率(1942年5月)
出典:資源小国のエネルギー産業 芙蓉書房出版 橘川武郎著 集計値は戦時中の1942年(昭和17年)5月

“近年の東南アジアは石油不足であり、ベトナムに進出し、石油を安く供給しようと奮闘している出光の状況は、出光佐三の消費者本位と一致していると僕は思っている。(橘川教授)”

日本の石油会社で初となる海外での製油所建設を進めている出光だが、ベトナムのニソン製油所で使う原油も現地で採掘しているわけではなく、合弁相手のクウェート企業から持ってきている。

原油は産地により成分が異なり、クウェート産原油は重質油(heavy crude oil)である。北米で採れる軽質油と違い重質油は高い精製技術が求められるため、世界から高く評価されている日本の精製技術が生きてくるだろう。さらに高付加価値のある化学製品をベトナムを拠点としてアジア各地へ供給するグローバルな展開も視野に入れている。

“そこに昭和シェルの力を借りるとさらに強くなると思う。ロイヤル・ダッチ・シェルから譲り受けた資産のなかには、親会社の海外関連会社で働いていた優秀な人材が含まれる。彼らは石油のトレーニングに強い。昭和シェルとの統合で、僕が理解する出光佐三の経営理念を継承し実現する会社が生まれるのではないかと見ている。(橘川教授)”

石油元売り大手3大グループの今後は

第三極をめざすコスモ石油

日本政府は当初、震災による千葉製油所の爆発の影響で財務状況が悪化していたコスモ石油の救済を念頭に置いていたようだ。

政府がコスモ石油を特別視するのには理由がある。それは(日本政府が筆頭株主である)国際石油開発帝石(INPEX)が権益を保有するザクム油田が近い将来に契約更改を迎えるからだ。アブダビ政府との交渉を進める上で、アブダビ政府の関係機関が資本参加をしているコスモ石油の支援は重要だ。

しかしコスモ石油は今年の2月に元東燃系のキグナス石油との資本提携を発表した際に、「国内石油業界の第三極としてやっていく※」という意思表明をしている。
※プレスリリース https://ceh.cosmo-oil.co.jp/press/p_170221_2/index.html

コスモ石油は下流(サービスステーション)と上流(油田)に強く、中流(製油所)が弱いというポートフォリオだ。中流を補完するために他者と組むという可能性はあるのだろうか。

東京理科大学大学院イノベーション研究科教授 橘川武郎氏

“すでにコスモの千葉製油所と東燃ゼネラルの千葉製油所は連携して動いているのでJXTGグループともいえるし、四日市製油所は昭和シェルの昭和四日市石油と連携している。残る堺の製油所の特徴は、「Coker(コーカー);重質油熱分解装置」という特別な熱分解装置を有している点だ。極論をいえばこの製油所単体で生き残れると思う。堺の製油所と似た機能の設備(RFCC;残油流動接触分解装置)をもつ太陽石油の製油所が四国・愛媛にある。こうした特殊な装置を1製油所で持つというのもありえる。(橘川教授)”

1990年代には30社近くあった石油会社の再編は、いま最後の仕上げを迎えようとしている。(電力業界編へ続く

話:橘川武郎(東京理科大学大学院イノベーション研究科 教授)
取材・文:M&A Online編集部

橘川 武郎

1951年生まれ。75年東京大学経済学部卒業。83年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。同年青山学院大学経営学部専任講師、87年同大学助教授。その間ハーバード大学ビジネススクール 客員研究員などを務める。93年東京大学社会科学研究所助教授。96年同大学教授。2007年一橋大学大学院商学研究科教授。15年東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。20年より現職。東京大学名誉教授、一橋大学名誉教授。

著書は『日本電力業発展のダイナミズム』(名古屋大学出版会)、『原子力発電をどうするか』(名古屋大学出版会)、『東京電力 失敗の本質』(東洋経済新報社)、『電力改革』(講談社新書)、『出光佐三―黄金の奴隷たるなかれ』(ミネルヴァ書房)、『出光興産の自己革新』 (一橋大学日本企業研究センター研究叢書)、『資源小国のエネルギー産業』(芙蓉書房出版)、『石油産業の真実―大再編時代、何が起こるのか―』 (石油通信社新書)、『ゼロからわかる日本経営史』(日本経済新聞出版)、『イノベーションの歴史』(有斐閣)など。電力会社10社中7社の社史を執筆ないし監修。

総合資源エネルギー調査会委員。経営史学会前会長。


NEXT STORY

出光興産と昭和シェル石油の業務提携で大きく変わるクレジットカードの使い方

出光興産と昭和シェル石油の業務提携で大きく変わるクレジットカードの使い方

2017/06/11

出光興産と昭和シェル石油の合併の話は2014年からずっとくすぶり続けている話です。提携から合併に進めば、出光と昭和シェルで展開していたクレジットカードやポイントサービスなど、私たちの暮らしにも影響する可能性があります。今後どのように変化していくのか考えてみたいと思います。

関連のM&A速報